『奇蹟』など、起こり得るはずがない。







奇蹟




「リアラ!」
呼ばれて振り返ると、金髪の少年が大きく手を振っていた。
「カイル」
微笑んで、立ち止まった。
キャンプをするために、薪を拾いに来たのはカイル。
水を探しに来たのはリアラ。
「一緒に行こう」
サクサクと、草を踏む音が響く。
カイルが延々と話す、他愛も無い言葉に、
リアラはただ相槌を打って頷いた。
少し歩くと、水場に出ることが出来、彼女の目的は達成される。
ほんの少しだけ、残念に思ったのは片方だけではないだろう。
「ね、カイル。少し休んでいかない?」
「え?でも…」
「薪だって、そこら中にあるわ」
言われて見回せば、近くには枝がバラバラと落ちている。
「ホントだ」
ま、いっか。
呟いて、カイルは靴を投げ捨てて川に飛び込んだ。
「カイル、危ないわ」
心配そうなリアラに、カイルは笑う。
「大丈夫だよ。ついでに、魚も獲っていこうか?」
跳ねる水しぶきが、光を帯びて輝きだす。
程よい気温に、水はまだ冷たくはあったけれど。
足元を過ぎる小さな影に、カイルは素早く手を伸ばす。
「あっ」
言うが早いか、彼は魚を1匹手にしていた。
魚は逃げようと、必死で身体中を動かしている。
「へへっ、捕まえ…」
「カイル!」
リアラが呼びかけたときには遅かった。
持っていた魚が逃げ出し、捕まえようとして、
カイルは足を滑らせた。
思わず、リアラはカイルの傍に駆け寄る。
「大丈夫?!」
「うん。またロニとナナリーに叱られちゃうや」
ヒトの心配をよそに、見当はずれなことを言うカイル。
リアラは可笑しいやら、呆れるやらで笑い出してしまった。
「もぅ、カイルったら…ッ」
2人して水の中に座り込み、冷たさも忘れて笑いあう。


「やっと、笑ってくれた」


カイルはぽつりと呟いた。
そのセリフに、リアラは僅かに目を見開く。
「何を、考えてたの?」
見透かされていた心を、どう言えばいいのだろう。
絶対に、気付かれていないと思っていたのに。
「リアラ?」
「…『奇蹟』を…」
考えて、しばらくすると彼女は口を開いた。



「私に『奇蹟』が起こせるかしら」



人々を幸福に導くような、『奇蹟』を。
エルレインが起こしたような『奇蹟』を。



リアラは首を振る。



「『奇蹟』なんて…起こり得ない」



すっかりと俯いてしまったリアラに、
あっけらかんと少年は言い放つ。



「リアラがそう思っているんならね」



彼女が顔を上げるのを確認すると、カイルは唐突に質問した。
「『運命』って何で出来ていると思う?」
リアラは、首を傾げる。
「…分からないわ」
太陽を見上げ、眩しげに目を細める。
何度か瞬きすると、視線をリアラに戻した。
「俺はね、『奇蹟』で出来ていると思うんだ」
何か言いたげな少女の瞳に、カイルは続ける。
「皆がいる『奇蹟』、ここにこうして生きている『奇蹟』」
手を伸ばし、リアラの頬に触れた。
「君と」
微笑んで、リアラを抱き寄せる。




「出会えた、『奇蹟』」





腕の中の小さなぬくもりを感じた。




「全部、『運命』だ、って思えるから」




暖かすぎるぬくもりに、涙が溢れそうになる。
「違う、それは『奇蹟』じゃないわ」
「違わない」
「違う」
「違わないよ」
堂々巡りの会話に、カイルは尋ねる。
「じゃあ、何を『奇蹟』だと思うのさ」
否定するだけの答えを、リアラは持たない。
持たないからこそ、『奇蹟』の意味を求めていた。
困惑する彼女の背中を、優しく叩く。
「俺が、リアラの『英雄』になることが出来たのだって、『奇蹟』だって思ってる」
宥めるように、説くように、カイルは言う。
出会った最初の頃と比べれば、精神的にも成長したと言えるだろう。
純粋さは残したまま、強く、強くなっていく。
「答えが見つからないのなら、これから探していけばいいよ」
リアラから少しだけ離れ、向かい合う。
未だ、少年のあどけなさを残した面差しが、視界に入った。



「君は1人じゃない」



そのセリフを耳にした時、何かが、リアラの中で弾けた。
ずっと不安で、怖くて、でも誰にも確かめることが出来なかったこと。



「一緒に、探そう」



ゆっくりとリアラの手を取ると、微笑んだ。
「こうして、手を繋ぐことだって、『奇蹟』になるかもしれないだろ?」
彼の無邪気さに、張り詰めていた虚勢が
ガラガラと音を立てて崩れていく。
凍っていた氷が溶けるようにして、涙が溢れた。
「…カイル…」
何度も何度も頷き、リアラはカイルの胸に顔を埋めた。





どんな結末になろうとも、もう決して迷いはしない。
私だけの『英雄』を信じる自分を、信じていけるから。
彼だけについていく事を、決めたから。



だから、お願い。
どんなことがあろうとも、貴方も決して迷わないで。
貴方の起こす『奇蹟』こそが、私の『奇蹟』。





そう。


どんな結末が待っていようとも、この手は離さない
――――…。






END

あとあとがき。
初めて書きました!カイリアです。
つぅか、リアラがどうしても好きになれなくて、
書けないだろうなぁとか思っていたシロモノ(爆)。
次はロニナナに挑戦だ!ジューハロは絶対無理だ!!

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