どんな願いも、望みも、祈りさえも。
どうか、俺にだけ叶えさせて。



■ Love 






目を閉じていても分かる程の眩しさに気付いて、
未だ重たい瞼を持ち上げた。
ぼんやりとした視界を、何度かの瞬きでハッキリさせる。
「…ん」
頬にかかった長い髪を手で払うと、傍にあるぬくもりに気付いた。
昔よりも一段と小さく見える体が、たまらなく愛おしい。
名前を呼ぼうとして、押し留める。
眠り続ける彼女は、寒くなったのか、身体をすりよせてきた。
握り締められた小さな手に、そ、と触れる。



―――この手で、いつも俺を送り出してくれる



闘いの最中、最後に背中を押してくれる。
『いってらっしゃい』と、
『絶対に帰って来てね』を同時に想いながら。



―――こんなに、小さな手で



ふと、小指の爪だけが長いのに気付く。
細い指が、微かに動いた。
「ぅ…ん…」
触れられたのがくすぐったかったのか、腕を引こうとする。
その手を掴んだまま、指先に口付けた。
「…ミコ、ト」
静かに、名を呼ぶ。
まどろみの中、くぐもった声で無意識の返事。
「命」
もう一度、呼ぶ。
彼の胸へと頭を寄せて、寝息が再び聞え始めた。
「…みぃこぉとぉ?」
少しむ、として名を呼べば、彼女はくすくすと笑い出す。
「やっぱり起きてたな」
憮然とした面持ちで、彼は命の手を離した。
「おはよ、凱」
「おはよう」
僅かに身体を起こして、命は横になったままの彼を見下ろす。
カーテンから漏れる光に、眩しそうに目を細めた。
それと呼応するように煌く獅子の髪を、ゆっくりと撫でる。
指の間を流れていく細い髪。
名残惜しげに、何度も撫でる。
「命」
髪を撫でていた手を頬に伸ばす。
白く、細い指が彼の唇を撫でた。
どちらからともなく、口付ける。
一度離れると、もう一度。
今度は凱が強引に唇を奪う。
そのまま、2人してベッドに倒れ込んだ。
彼の首に腕を廻す。
長い口付けの後に、2人は離れた。
見上げれば、意志の強い光を宿した瞳。
嬉しくなって、微笑んだ。
「命の小指」
「え?」
突然、発せられた言葉に命は首を傾げる。
己の小指を、じ、と眺めた。
「爪、伸ばしてるだろ」
あぁ、と、彼にも見えるように手を翳した。
「うん、願掛け」
「願掛け?」
気恥ずかしそうに微笑う彼女に、今度は彼が首を傾げた。
「そ」
「何の?」
「…内緒」
顔を背けて、凱から表情を見えなくする。
その様子に眉を顰めて、彼女の首筋に口付けた。
「何で?」
彼の行動に身じろぎながら、身体を押し返す。
「口にしたら、叶わなくなりそうだもの」
その手を掴んで、ベッドへと押し付けた。
「その時は俺が叶えてやるよ」
息が触れ合うほどの、近い距離。
見上げた瞳は、慈愛に満ちた微笑みを湛える。
「それじゃ、意味が無いの」
するり、と彼の腕を解く。
人差し指で、彼の唇を抑えた。
「駄目、よ」
彼女の真意が量れず、依然、眉を顰める。



―――貴方が、いつも無事に帰ってきますように



祈ることしか出来ないから。
ただ、見ていることしかできないから。
どんな微かなことにでも、望みを繋ぐ。
流れ星にでも。
小指の爪にでも。
ただひとりの、愛おしいヒトのために。



「あんまりしつこいと、嫌われちゃうぞ」
身体を起こして、ベッドサイドに腰掛けた。
瞬間、強く後ろから抱きしめられる。
「凱?」
肩口にある彼の頭に、こつん、と自分の頭を触れさせる。




「嫌われてもいい」




さら、と紅い髪が流れる。




「お前の望みは俺が叶えたい」




胸の奥が熱くなる。
冷めたはずの熱が、身体に戻ってくる。




「そんなこと、言わないで」




困ったように、目を閉じる。





「私は貴方が大好きなのに」





不意に、抱きしめられた腕が強くなった気がした。
お互いがお互いに愛おしくて、大切で。
だからこそ、己が傷付くことすら畏れずに、お互いを求める。
それが、お互いを護ることに他ならないことにも気付かずに。





「貴方が傍にいてくれるだけで、こうして触れられるだけで」





廻された腕に、優しく触れる。






「私は、倖せなの」






「…ん」





小さく頷かれた頭に、命は思わず微笑んだ。
時折見せる、少年のようなあどけなさ。
自分にだけ見せてくれる、甘えるような仕草。




「分かればよろしい」




くすくすと笑う声に、愛おしさがこみ上げる。
手を伸ばせば、触れることの出来るぬくもり。
安心しきって身を任せてくれる、彼女の優しさ。





こんなにも愛おしい気持ちを、
どうやって伝えればいいのだろう。





「命」
「凱」




小さく小さく呟いて、2人は短くキスをした。







どんな願いも、望みも、祈りさえも。
どうか、貴方の為だけに想わせて。








END
あとがき。
思ったよりも、甘くなったような、冷たくなったような(爆)。
よく分からない文章になってしまいました!
我侭凱兄ちゃんが書きたかったというのもあったり。
・・・さっきから、『ガイ』と入れると
1番最初に『害』が出てくるのは何の陰謀だろうか。

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