月の光も届かぬ夜は、貴方を想って眠りましょう。 星の光も届かぬ夜は、貴方を感じて眠りましょう。 真昼の月は、遠く切なく、私の心を蝕むのです。 |
Moon Of Noon |
久しぶりの太陽に、思いっきり手を伸ばす。 眩しさも、慣れてしまえば気持ちが良い。 「ミリィ」 呼ばれて振り返れば、同じ青い瞳の青年が立っていた。 「もう終わり?」 「あぁ、後は手続き済ませて帰るだけだ」 常人とは違う、黒いマントを羽織った男。 これかミリィのパートナーだ。 笑いながら、カードを見せる。 「ねぇ、ケイン」 そのカードを受け取り、持っていたポーチにしまい込んだ。 「あ?」 空いた手をマントにしまい込むと、陽の光が眩しそうに目を細める。 一瞬だけ、女性と間違えるような容貌。 けれど、ソレを言えば本人は大人げもなく怒るのを織っている。 「物足りない、って言ったら贅沢かな?」 上目遣いに見つめてくるパートナーに、ケインは子どもの様に笑った。 「俺も、同じコト思ってた」 常ならぬ、数奇な運命を辿ってきた彼らだからこそ言える、妙な空白感。 あの頃を思えば、今の仕事はハッキリ言って楽、である。 契約履行の手続きを終えると、あとは自由時間だ。 船に戻っても、今日は出発しないので、することがない。 「どっか、行きたいところあるか?」 「連れて行ってくれるの?」 嬉しそうに目を輝かせるミリィに、ケインは思わず微笑む。 こういう所は、いつまでたっても変わらない。 否、変わって欲しくないとさえ思う。 「どこへでも、My princess」 「そうねぇ」 わざとらしくナイトのふりをして、恭しくお辞儀をした。 白い彼女の手を取ると、甲に軽くキスを落とす。 ふふ、と微笑うと、ミリィはそのまま、彼の腕にしがみ付いた。 「今日は、一緒にお散歩してくれるだけでいいわ」 足取り軽く、彼女は歩き出した。 チョコミントに、バニラのダブル。 アイスクリームを片手に、ミリィは公園の噴水を一巡りした。 「転ぶなよ」 日陰に避難したケインは、彼女をぼんやりと眺めている。 芝生に腰掛けると、手に触れる青草がくすぐったかった。 一緒に買ったコーラは、すでに半分以上なくなっている。 僅かに溶け出したアイスを、慌てて舐める。 「そんなに子どもじゃありませんよーだ」 ミリィは、べ、とケインに向かって舌をだした。 「…どこが子どもじゃないんだ、どこが」 ぼやくが、彼女に聞えたかどうか。 暖かい日差しに、空を見上げれば、ボンヤリと浮かぶ白い天体。 「ケイン、はっけーん!」 手を翳して、ミリィは霞がかった天体を指差した。 同じものを見ていたのか、とケインは彼女に視線を投げる。 「何で」 「そこにあるのに、無いように見えるから」 「は?」 言われた意味が分からず、ケインは首を傾げた。 一種の問答のようにも思える。 「とっても遠くで、切なくて、そのくせ…」 また溶けかかったアイスを、大きくかじった。 上に乗っていたチョコミントは、色だけを残して無くなる。 「私の心を蝕んでいく」 口の中に、冷たく広がる甘さは、ほんの少しだけ辛い。 「私の中は、ケインでいっぱいになる」 真昼の月は、どこまでも白く、透き通る。 貴方の心もまた、そこにあって、無きものなのでしょう。 声には出していないのに、彼女がそう言っているようで。 「俺はここにいるのに?」 飲み終えたコーラのカップを、傍のゴミ箱に放り投げる。 ミリィは、返事もせずに背中を向けたまま、呼びかけた。 「ねぇ、ケイン」 いつも、不安だった。 居てもいいと言われたけれど。 ずっと傍にありたいと願ったけれど。 貴方のぬくもりは、この身体で感じることができるけれど。 「私、ケインの口からハッキリと『好き』って聞いたこと、無いよ?」 幾千のキスも、 幾千の抱擁も、 全てが夢であるようで。 「私のこと、『好き』?」 ケインは立ち上がると、ミリィを後ろから抱きしめた。 「いいや」 耳元で囁かれた言の葉に、彼女は身を固くした。 一気に、血が降りていく感じ。 「『愛してる』、よ」 その言の葉は、熱く、心に染み渡る。 涙になって、流れ落ちた。 「…ね」 「何だ」 「もう一度、言って」 廻された腕に触れて、ミリィは後ろに体重を預けた。 くすぐったそうに甘える。 ケインは彼女の持つアイスを舐めると、見上げたミリィの唇を奪う。 「『愛してる』」 バニラの味は甘ったるくて、涙の味は塩辛かった。 貴方と交わした口付けは、多分きっとそんな味。 夜闇でなくとも見えるのは、真昼の月がそこにあるから。 END |
あとがき。 |
久しぶりに、ロスユニでケイミリです。 |
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