雪が降る。
ふわりふわりと、舞い踊る。



触れて消えてしまうのを、
まるでアナタのようだと言ったら笑いますか?





It's  Snowing 1






凍えるような寒ささえ、いっそ心地よいとも思える。
口を開けば、吐息が真白に染まった。
「寒いね」
「うん、寒いね」
少年と少女は、そんな他愛も無い会話を繰り返す。
厚着をしていると言っても、やはり寒いものは寒い。
少女は手袋をしていない手を擦り合わせ、はぁ、と息を吹きかけた。
「リアラ、冷たいの?」
その様子を見やりながら、傍らの少年は顔を覗き込む。
くすり、と微笑うと、リアラは首を振った。
「やってみたかっただけ」
針鼠を思わせる金髪を揺らしながら、少年は明るく笑う。
つられて、リアラも微笑んだ。
「着けてていいよ」
差し出された手袋は、先ほどまで少年がしていたもの。
「ありがとう、カイル。でも、いらないわ」
彼の手ごと、押し返した。
不思議そうに瞬きを繰り返すカイルに、リアラは手を差し出す。
「手、繋ごう?」
そうしたら、あったかいから。
言う彼女のもう一方の手を掴んで、無理矢理、手袋を着けさせた。
「カイル?」
「半分こ」
手袋を着けた方の自分の手を見せて、カイルは、に、と笑う。
そうして、手袋を着けていない方の手を繋いだ。



こんな瞬間すら、倖せだと思える。



ざくり、と足元から雪を踏む音が聞える。
ふわり、と頭上から雪が舞う瞬間を感じる。
「また、降り出したね」
カイルは空を仰いだ。
同じ様にして、リアラも見上げる。
「えぇ、そうね」
「寒い?」
白い息が後ろへと流れていく。
店の前を通れば、暖かいストーブの匂いが鼻についた。
「寒くないわ」
繋いでいる手を、少し強く握る。



消えてしまわないように。
解けてしまわないように。



温もりがココにあることを、強く、強く、確かめるように。




「リアラ?」
俯いてしまった彼女を、心配そうに見やる。
カイルの優しさを織っているからこそ、リアラは気丈に振る舞った。
「なぁに、カイル」
何も言おうとしないからこそ、カイルは何も聞けなかった。
無理矢理に聞き出した本音は、どこまで本当か分からない。



だからこそ、彼女の言葉ひとつひとつを、
聞き逃すことなく慎重に耳を傾けているのだ。



彼女の言葉を信じるしか、カイルには出来ない。
彼女がカイルを信じてくれるのを、信じることしか出来ない。



どうにも、カイルは表情に感情が出やすい。
心配げに下がった眉に気付くと、リアラは苦笑した。
彼の心情を悟って、大丈夫よ、と囁く。
城壁を出て、イクシフォスラーへと足を向けた。
「カイルみたい」
ぽつん、と呟く声すら、幻に思える。
リアラは真っ直ぐに、雪原を見つめていた。
「何が?」
「この風景」
腕を伸ばし、雪原を指差す。
どこまでも、真白に広がる大地。
降り続ける雪は、遠くの景色を霞ませた。
「『不安』?」
カイルは、首を傾げて苦笑する。
いつか彼女が雪を見て、そう評した。
けれど、リアラはゆっくりと頭を振った。



「『無限大』」



空を仰いで、瞳を閉じる。
瞼に、冷たいものが触れて、解ける。
リアラはゆっくりと、瞼を持ち上げた。
「どこまでも広がっている可能性」
ほのかに上気している頬は、寒さゆえだろうか。
白い肌が、銀世界の中、儚く浮かび上がる。
「何が起こるか分からないけれど」




私は、ヒトではないけれど。




「何でも起こしてくれる気がする」




ヒトではないからこそ、ヒトが起こす何かを信じたい。




「私はカイルを信じてる」





ひとでなしのこの恋は、
いつか儚く消え行くのでしょう。




だから、今。
貴方を信じたいと。
貴方を愛したいと、心が叫ぶ。





彼女の言の葉を聞きながら、心の奥で、何かが憤る。
「俺は…」
立ち止まってしまったカイルを振り返った。
「え?」
何かを言おうとして、口が開かれるが、
それは音を成す前に閉じられる。
大きく頭を振って、微笑みながら前を向いた。




「…何でも、ないよ」




むしろ、君のようだと言ったら笑うだろうか。
触れたくて、でも触れてしまえば消えてしまうようで。
儚く、切なく、解けてしまうようで。
その指の細さも。
その肌の白さも。
その髪の煌きさえも。



すべてが、雪を想わせる。



ずっと共にありたいと、ここで言ってしまったら、
君はどんな顔をするのかな。
きっと、俺は織っている。
君は、悲しそうに、困ったように微笑うんだ。



だから、今だけは。






ひとでなしの恋を。


ひとでなしへの恋を。






今だけは、雪へと想いをただ、馳せて
―――…。









END
あとがき
トップバッター(?)はカイリアで。
この2人は、あんまりいちゃついて欲しくないなぁ(笑)。
いや、本当にもう純粋なオツキアイで!!
手を繋ぐとか、抱き合うとか、そこまでで満足できるって言うか。
それ以上はいらないっていうか。
2人とも、まだ子どもだからね!!

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