別に見栄を張って家を出たワケでも、 大陸一の魔術師になってやると言い放ったワケでも、 二度と家には帰らないとケンカ別れしたワケでもない。 姉も世界を見て来いとは言ったけれど、帰って来るなとは一言も言っていない。 ただ、自由を謳歌している身としては『あの』姉が居る家に、 絶っっっっっ対に帰りたくはないという単純かつ明快な理由があるだけだ。 |
里帰りも楽じゃない! |
木々が生い茂った森の中、倒れている大木に適当に腰を下ろして、 常人のそれとは比べ物にならない程に大量の干し肉やらパンやらを齧る男女の姿がある。 男は傭兵なのか簡易式の鎧を身に着け、傍らに剣を立てかけている。 長い金色の髪は背中に流し、前髪が片目を隠していた。 黒マントを羽織った女、と呼ぶより少女と呼ぶ方が似つかわしい。 魔術師だろうか、その割には形から入った見掛け倒しにも見える可愛らしい顔立ちだ。 栗色の長い髪はしっかり手入れがされていて、風にふわりと靡いている。 男は20代前半、少女は10代半ばといったところか―――多分。 年の割には真っ平らな胸元だが、多分、恐らく、なのだと思う。 「次はこっちの街に行きたいから、ここをぐるっと回って」 缶詰を開けながら、少女が膝の上に広げた地図をフォークの先で差す。 「おい、リナ。何で遠回りするんだよ、真っ直ぐ行ったら近いだろ?」 前から覗き込んだ男が訝しげに眉を顰めた。 間の抜けた顔をしなければ、中々に整った顔をしている。 「ガウリィ、あんたクラゲ頭に入ってるか分からないけど、急がば回れって諺があるのよ」 くるりとフォークの先が宙で円を描く。 大体ね、と言いかけたところで背後付近から荒々しい足音と、野太い声が響いた。 至極面倒臭そうにリナは背後を振り返る。 お約束とばかりに適度に髭を蓄え、赤ら顔に片目の眼帯、 抜き身の剣を携えたいかにも盗賊ですと看板を引っ提げているような男を含めて、 3人程が薄ら笑みを浮かべこちらを見ている。 「命が惜しければ、金目のものを置いて行って貰おうか!」 「…だからね、古人の諺に従うならばこのルートがお勧めなワケよ」 「意味が分からん、お前さん効率性がどうのこうのいつも言うじゃないか」 「〜っっ、お前ら無視してんじゃねぇぞ!!」 確かに振り返った、一度だけは。 振り返っただけでも感謝して欲しい、真後ろを向くのは結構首が疲れるのだ。 「リナ、後ろのおっさん達が何か言ってるぞ」 「ほっときなさい、目を合わせちゃダメよ」 もくもくと食事を続けるふたりに痺れを切らした盗賊達が、 とうとう二人めがけて襲ってくる―――はずだった。 少女はフォークを持ちっ放しの指先をちょいっと、肩越しに彼らへと向ける。 そうしてちょっとだけ、短く、唇が動いた。 「火炎球」 突如、轟音と火柱と人の悲鳴らしきものが入り混じって、同時に消える。 ひとしきり食事を終えた2人は何事も無かったように手を合わせると、 すっくと立ちあがった。 「今日は追い剥ぎしないのか?」 「だぁって、見るからに何も持ってなさそうなんだもん」 「ん〜…まぁ、そうだな」 「でしょ?」 すたすたと人が歩く道まで出ようとした彼女の首根っこを、ガウリィはむんずと掴む。 気道が圧迫され、唐突に掴まれたリナは堪ったものじゃない。 「何すんのよ!?」 振り下ろした拳を難なく避けて、 いつの間に抜き取ったのか彼女が持っていた地図をびらりと広げた。 「さっきの話が終わってないぞ?」 今日はやけにしつこい。野生の勘という奴か。 こんなときに発揮してほしくないものだ。 突き付けられた地図には、彼女が先程道筋を示した街が点々と描かれている。 大陸中の国々を比較しても、その街々が点在している王国は治安がすこぶる良い。 それと言うのも、国民は老若男女関わらず猛者揃い、永遠の女王は秘密部隊すら有している。 今、彼らが目前にしている王国の名はゼフィール。 どうしてもの理由が無ければ、リナが最も近付きたくない国だ。 それというのも。 「…あ」 「『あ』?」 彼女はものすごい形相でガウリィを睨むと、ありったけの声で叫んだ。 「あたしの故郷だから帰りたくないって言ってんのよ!!」 分かるでしょ!?あたしがどんだけ姉ちゃんを恐ろしいと思ってるか知ってるでしょ!? 早口で一気に捲し立て、ぜぇはあと肩で息をする。 彼女はあまり姉を語ろうとしない。 幼い頃のトラウマはあまりにも強烈だった。 引き合いに出されればパニック状態に陥り、 思い出そうとしただけでも真っ青になり立ち竦む。 『ドラまた』とあだ名されるリナ=インバースが最も恐れるもの、 それは血の繋がった姉なのだ。 「あぁ、なるほど」 ぽむ、と彼はようやく気付いたとばかりに手のひらに拳を載せた。 「分かったなら、さっさと用事済ませて別の街に行くわよ!!」 「だったら尚更行かないとな!」 「……………………………………はい?」 ぎぎぎぎ、と音が聞こえてきそうな動きでリナは背後のガウリィを振り返る。 早々に街道に出ようとした足は宙に浮かんだままだ。 「なりゆきとは言え、現保護者だしな。親御さんにご挨拶しておかないと!」 「はァ?!何でそこに行きつくのよ!!保護者なんて認めて無いし!!」 そもそも『親御さんにご挨拶』だなんて、まるで恋仲のようではないか! いくら彼が無意識で無自覚であったとしても冗談じゃない。 特別彼をどうこう想っているワケでもない――らしい――が、その状況は非常に困る。 意識するだけ無駄だと言うのに、何故こうも顔が熱くなるのか。 うんうん、と頷いてひとり納得している彼を張っ倒したい気分が沸々と湧いてくる。 何しろ彼は無駄に頑丈で、魔法ひとつくらいでは怪我もあっさり治ってくれるのだから、 ストレス解消に丁度良い、などとは思ってるような思ってないような。 とにかく、姉の問題を差し置いたとしても、絶対に帰りたくない理由がもうひとつ増えた。 「よし、行くか」 「行くか、じゃないわよ!嫌よ!ずぇぇぇったいに嫌ッッ!!」 手を掴まれてずるずると引きずられていく。 傍から見れば、仲の良い兄と妹のような構図だ。 「お前さん、旅に出て1回も家に帰ってないんだろ?元気な姿を見せるのも親孝行なんだぞ」 心配などするような親でも姉でもないが、そう言われると言葉に詰まる。 彼の言う通り、里帰りなどした覚えがない。 神妙な顔で、珍しくまともなことを言われるとこちらも反論出来ないのが事実だ。 苦虫を噛み潰したような顔をし、数分間沈黙の後にリナはとうとう折れた。 「い…一瞬だけ、一瞬顔を出すだけだからね!」 「分かった、分かった」 まるで幼子を宥めるようだ。 こういうときだけ大人ぶるのは止めて欲しい。 否が応にもやはり彼は年上なのだと実感してしまう。 万が一姉にばったり会ったところで、どう足掻いても敵うはずがない。 客の前だからと容赦をしてくれるとも思えないが、多少なりともマシかもしれない。 消え入る寸前の泡沫のような希望を胸に、リナは重い重い足取りで帰途へと着くのだった。 街に足を踏み入れれば、見知った顔が久し振り、と声をかけてくる。 彼女の悪名もこの国では大した問題ではないらしく、 いつものように怯え、逃げ惑う人間を見ることはない。 何年振りかの故郷は殆ど変りなく、 変わったことと言えば近所の猫がいつの間にか子猫を連れて歩いていたくらいだ。 時折、顔見知りに意味ありげに背後のガウリィを見られたが、 彼も処世術くらいはあるようで特に口を出すことなく笑って挨拶をする程度だった。 余計なことを言い出すのではないかとヒヤヒヤしていたリナの杞憂に終わってほっとする。 「お前さんにも友達居たんだなぁ、安心したよ」 そこの角の店で買った焼き鳥にかぶりつきながら、ガウリィは心底感心したように頷いた。 「失礼ね!友人くらい居るわよ!!」 一体ヒトを何だと思っているのか。 確かに近所のガキに悪戯されて、 ちょぉぉおおっっっっとだけ手厳しい仕返しをしたこともあるが、 後腐れの無い子ども同士の喧嘩である。 実際、彼女ですらこの国では赤子同然の扱いなのだから、 強い魔力を持った子ども同士の喧嘩くらいで大騒ぎになることはない。 あちらこちらに寄り途をしつつ、遠回りに遠回りをして、 彼女はようやっとひとつの店の前で立ち止まった。 リナの実家は商家で雑貨屋を営んでいる。 引く手数多の姉はバイト三昧で一か所に留まって働いていることは殆どない。 それらを踏まえた結果、店に姉が居る可能性は限りなく低い。 あわよくば両親に顔を見せて、さっさと出立することが出来る。 あたし冴えてる!!と扉を開けようとした手が止まった。 押しても引いても扉が開かない。 「『商品仕入れの為、数日間臨時休業させて頂きます』」 扉の前の張り紙をガウリィが読み上げた。 (つ、ツイてる………ッッッ!!!) 内心どころか、思いっきりガッツポーズを決めるリナの隣で、 ガウリィは残念だったな、と顎に手を添える。 「居ないんなら仕方ないわよね!さぁ、さっさと出発するわよ!!」 「何言ってんだ、姉ちゃんは居るんだろ?」 リナの思考がすぽーんと飛んで行った。 確実に混沌の海あたりまで飛んで行ったに違いない。 そんな感じがする。 ついでにフェードアウトして気を失ってしまいたい。 こんなにも血の気が引いてるなら倒れたって誰も怪しまないはずだ。 「こ―――…ッの、すかぽんたん!!あたしは姉ちゃんに会いたくないの!!どんな魔王よりも姉ちゃんが恐ろしいの!!分かる!!?分かって!!?」 ギリギリと彼を締め上げるも、あまり効果は無い。 殴り倒してどうにか出来るならとっくにどうにかしている。 残念なことに、彼は非常に頑丈なのだ。 「いや、でも、お前さんがそんなに怖がる姉ちゃん見てみたいんだよな、俺」 珍獣か!!と叫びたいのをぐっと堪え、何と言えば伝わるのかと思考回路をフル回転させる。 鮮やかに理詰めで屁理屈を並べたて誤魔化す方法なんて幾らでも身に付いている。 だがしかし、相手はこのガウリィだ。 全ての言葉を受け流し、分かったと言いながら分かっていないクラゲ頭。 微妙にそれなりに付き合いの長い、経験上一番厄介な旅の連れ。 案の定、こういうときにだけ目敏いのだ。 「自宅の地図、張り紙に一緒に載ってたし」 『ご用事の際は直接こちらへ』とご丁寧に簡易地図。 客を逃すまいと商人根性が見え隠れする両親に平伏しそうになる。 居ないなら居ないで姉のレナが応対することくらい、近所の人間は百も承知。 店を開けることが出来ずとも、商品を出すことくらいは出来る。 勝手知ったる何とやらだ。 「ねぇ、ガウリィ!ほんっとぉぉおおに嫌なの!駄目なの!!お願い!!」 必殺泣き落し! 両手を組んで、潤んだ瞳でリナはガウリィを見上げた。 こちらとて必死なのだ、やれることは全部やる。 ほだされたのかリナの名前を呟き、 彼は少しばかり心配するような表情を見せた、かに見えた。 「頑張れ!」 「何をよ!!?」 失敗である。 彼はとうに向かう気満々で、彼女の腕を逃げられないように掴んで抱え上げた。 ひょいっと軽々抱えられては、小さな身体のリナは抵抗のしようがない。 「ちょ…ッ、ガウリィ!?」 「だって、逃げるだろー」 「逃げるわよ!はーなーしーてー!!」 「向こうに着いたら下ろしてやるから」 「それじゃ遅いのよ、お馬鹿ッッ!!」 「さー、行くぞ!」 「やだぁぁあああああ!!!!」 ただの痴話喧嘩にしか見えない風景を微笑ましく見守る者はともかく、 口を出すものは無く、散々騒ぎながらガウリィはリナの実家へと向かう。 段々と大人しく、口数の少なくなっていく彼女に彼はひとつだけ息を吐いた。 「あのなぁ、そんなに嫌がることないじゃないか」 「アンタに何が分かるのよっ」 幼い駄々っ子のように不貞腐れてみても、彼が歩みを止めることは無い。 「確かに、血の繋がった人間が無条件で愛してくれるとは限らんが、少なくともお前さんのとこは違うだろう?」 細かいことを気にすることは無いが、 普段のお人好しな彼からとは思えない言葉にリナは目を瞬かせた。 子どもを愛さない親なんていない、それくらい言ってのけそうな気がしていたのは、 彼女の見当違いだったのかもしれないとさえ思わせた。 思えば、彼は自身の過去をひとつも話そうとしない。 踏み込んで訊こうともしなかったし、敢えて訊かなかったワケでもない。 なし崩しに自分の姉のことまで語らなければならなくなった場合が煩わしいので、 話を振らなかっただけだ。 「…アンタは?」 「ん?」 「里帰りしないの?」 「おお、直球だなぁ」 けらけらと笑うが、やはりいつもの彼とは違う。 けれど、自分から振った話を中途半端に終わらせるのは嫌いだ。 「お父さんが怖いとか?」 「いんや、別に?」 「じゃあ、お母さん」 「まさか」 彼女がどう言葉を繋げようかと考えあぐねていると、 ややあって、彼が口を開いた。 「…まぁ、綺麗なモンじゃないよな、人間なんて」 幼い頃から見て来たのは、諍いばかりだった。 言い争わない日はないのではなかろうかと思うくらいに頻繁に。 家宝である光の剣を巡って繰り返される骨肉の争いは、 冷え切った親族関係をさらに悪化させるだけだった。 彼もそれに染まってしまえば楽だったのだろう。 決して染まることが出来なかったガウリィはある日、光の剣を持って家を飛び出した。 今よりも若く、思慮が短絡的だったことは否めない。 持ち出した後に、残った家族が責め苦を受けるであろうことを考えもしなかった。 しかしながら、肉親にすら希薄だった愛情は彼を思い留まらせるには至らなかったのだ。 きっと、今も後悔はしていない。 「お、ここだな」 いつも通りの軽い調子でガウリィはリナを実家の玄関先にすとんと下ろした。 彼女が次に口を開けば、彼女もまたいつも通りに振舞うのだと分かっていてそれに甘える。 卑怯だと彼女の視線が言っていても、これ以上は何も言えない。 知らなくても良いことだ。 追及を諦めたのだろう、リナは大きく息を吸って頭を振った。 「…どうなったって知らないからね?」 恐る恐るドアノブを回す彼女を見て、ガウリィは目を丸くした。 「鍵掛かってないのか?不用心だな」 「そういう術を掛けてるの、家人にしか開けられないのよ。開いた後は無効になるけど」 「鍵掛かってるときに無理矢理開けた場合には?」 「惨過ぎて、あたしの口からは言えないわね」 「そりゃ怖い」 大きくも小さくもない家だ。 家族4人で暮らすには十分で、無駄のない広さでもある。 がらんとした家の中にはやはり人は居ないようで、 きょろきょろと見回すガウリィを余所に、リナはほっと胸を撫で下ろした。 直後に姉が帰ってきてもおかしくはないが、 一先ず、心の準備をする前にばったり鉢合うハメにはならずに済んだ。 「ほら、ほんとに誰も居ないでしょ」 言いながら窓を押しやる。 晴れ晴れとした笑顔で全部開いたその瞬間だった。 何か、焔の様な矢の様な何か、がリナの頬を掠めて家の中へと滑り込んできた。 滑り込むなんて形容は生ぬるいかもしれない。 「―――ッッ!!?」 声にならない悲鳴を上げて、彼女の顔が真っ青に染まる。 「ん?今の炎の矢か?」 本当に驚いたときには声も出ないとは事実だ。 実際、リナはそれを身を持って実感している――過去に星の数ほど。 炎の矢が飛び込んできて、何も壊れずに済んだのはきっと絶妙な力加減のお陰である。 壁に深々と突き刺さった炎の矢が火事にもならず燃え尽き、 その先端に刺さっていたらしい羊皮紙がひらりと足元に落ちた。 燃えなかったところを見ると、こちらの羊皮紙にも何らかの術が施されているらしい。 こんなとんでもないことをやらかす人間を、リナは1人しか知らない。 リナの悪名はともかく、 あの姉が住んでいる家に攻撃魔法をブチ込むなんて命知らずを知らない。 悩む間もなく、犯人は断定出来た。 (帰って来てるのが姉ちゃんにバレてる………!!!!) 足元の羊皮紙にちらりとも視線を落とせない彼女の代わりに、 ガウリィはそれをひょいっと拾い上げる。 そうして、小さく吹き出した。 「リナ。おい、リナ」 ひらひらと彼女の前で手を振って、羊皮紙を眼前に突き出した。 近過ぎて見えないのは置いておいて、取り合えず見たくない。 彼女の様子に構わず、見てみろとばかりにガウリィはそれを手渡した。 『戸棚の茶葉使って良いから、今度同じの買って来なさい。バイト中の姉より』 自分の消費したものを買い足すのは日常茶飯事。 リナはようやく目に入れた羊皮紙を手にして、恐る恐るキッチンの戸棚を振り返った。 そこにちょこんと乗っていた紅茶の缶はやけに見覚えがある。 (にゅ…っ入手困難な超人気ブランドじゃないの…ッッ!!!) どんな鬼よ!!鬼よりも悪魔!?魔王なの!? 口が達者なリナだと言うのに、 ぐるぐると罵詈雑言が浮かぶことすら許されない程に身体に叩き込まれたトラウマが、 『姉ちゃんのバカ』と幼子のような台詞すら吐くことを拒否する。 「良かったなぁ」 そんな彼女の心情を知ってか知らずか、呑気な台詞を口にする彼をギッと睨んだ。 「何が良いのよ!?あたしは家のモノには絶対触らないわよ!?」 「いや、だってほら、それ、帰ってきて良いってことだろ?」 「はァ!?」 「帰って来いって」 『茶葉を使って良い』はお茶でも飲んで行きなさいと言うこと。 『今度』はまた帰って来いと言うこと。 未来の約束は、未来でしか果たせない。 「………は…へ…?」 たったの一言掻き添えられた羊皮紙から、正直そんな感情は読み取れない。 穴が開くほど見つめても、やはり分からない。 例え、彼が言う通りであったとしても、 (………分っっかりづらッッ!!!!) なのである。 羊皮紙を掴んだまま、ぐるぐると考えていると、 ガウリィが前髪を掻き上げたのが眼の端に映った。 いやいや、そんなことはどうでも良い。 問題は次の台詞だ。 「お前さん、姉ちゃんのこと嫌いじゃないだろ」 思考回路停止。 リナの脳みそは考えることを放棄した。 彼の思考は非常に読み辛い上に、理解しがたい。 理解出来るものが非常に少ない。 「………ハイ?」 「苦手だ、恐ろしいだの言ったことあっても、嫌いとは言ったことないじゃないか」 「そりゃないけど!!?」 無いには無いが、恐ろしくて口にも出来なかったと言うか。 こんがらがる頭で思考を整理していく。 しかしまぁ、確かに姉が絶体絶命の大ピンチ!にでもなれば、 ――億が一にも考えられないとしても――流石に彼女とて身体を張って守るかもしれない。 多分、恐らく、姉も同じであろうことくらい想像に難くない。 例え、助けられた後で散々酷い目にあったとしても、だ。 恐れてはいても、憎んではいない。 それは確かに彼の言う通りで、根本では理解していたことで。 指摘されるまで考えても無かったことに気付かされる瞬間は非常に悔しい。 「…ばかじゃないの」 悔しくて、悔しくて、悔しくて、そう言い返すのが精一杯。 彼はしたり顔で頭をぽんと撫でてくる。 子ども扱いするなと叫ぶ気力すら湧いてこない。 彼は知っているのだ。 家族の絆すら時として脆く崩れて失われてしまうことを。 失われない確かな絆ならば手放してはならないことを。 知っているからこそ背中を押す。 先程の台詞から察するのであれば、 彼の絆とやらはきっともう修復することすら叶わないのだろう。 (あぁ、やっぱり悔しいなぁ) 自分のことは二の次で、 ヒトの為に笑うことの出来る彼に感じたのは相棒としての友愛か、 それとも他の何かだったのか。 今の彼女には分からない。 旅はまだまだ続けるし、これから出会う者もあるだろう。 打算よりも先に考えられるような、かけがえのない絆にも触れるかもしれない。 世界を見て来いと姉は言った。 小さな世界に留まるよりも、たくさんの世界を見、たくさんのヒトと出会い、 たくさんのものを感じて来いと。 はたしてそれは、リナにとって最も適していた生き方だったに違いない。 そう知っていたのだとしたら、やはりそれは愛されていることに他ならないのだ。 正面から見据えてその現実と向き合うのはまだ気恥ずかしい。 だから今はただ、姉にほんのちょっぴり感謝して生家の扉を閉めるのだった。 END |
あとがき。 |
えりかさまに捧げます。 うわああああ!!!すみません!!! 前のソース使ってるもんだからそのままになってました!!(爆) 時間軸がどの辺りか非常に怪しいですが、そこらは妄想の産物と言う事で…! ガウリィの大人な雰囲気を描きたくてこんなになっちゃいましたごめんなさい(土下座)。 宜しければお持ち帰り下さいませ! リクありがとうございました。 |
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