Little Feel



どんなに小さな想いでも、きっと届いてくれるはず。



だから、ね?
ココロから想いを込めて。





貴方にハッピーバレンタイン。



カチャカチャと、キッチンに調理器具のぶつかる音が聞こえる。
そこら中に甘い香りが漂っている。
シュンシュンとお湯の湧き、卵を割る小気味良い音も。
「ねぇ、ジニー。そこにあるボウルを取って頂戴」
モリーは楽しそうに歌を口ずさみながら、ジニーへ頼んだ。
「はぁい」
手を伸ばして、テーブルにあったボウルをモリーへと手渡す。
「今年は何を作るの?」
「今年はパイを焼こうと思うの」
ジニーは微笑み、別のボウルのクリームをへらでかき混ぜた。
「素敵。」
カスタードクリームが丸い形を残したまま、トロリと溶け込む。
「貴女は?」
「え?」
不思議そうな顔をモリーへと向けた。
ウィーズリー夫人は湧いたお湯を火から下ろして、ポットに注ぎ込む。
紅茶の良い香りが、一瞬にして広がった。
「貴女は誰かに贈り物はしないのかしら?」
「いつもしているでしょう?お兄ちゃん達に、お父さん」
クスクスと笑って、首を振る。
ボウルに入っていた小麦粉に、卵を入れた。
「そうじゃなくて」
こねていたパイ生地の形を整えて、冷蔵庫に押し入れる。
十分蒸されたと思われる紅茶を、二つのカップに注いだ。
それはジニーの前に差し出される。
「誰か――そうね――特別な誰かに」
「トクベツな?」
クリームを混ぜていた手を休ませて、差し出された紅茶のカップをとる。
椅子を引きながら、モリーはゆっくりと腰掛けた。
「例えば」
湯気が天井へと立ち上る。
何か魔力の関わった紅茶の葉なのか、その湯気はいつまでも消えずに、
天井を漂っている。
くるくると回り、モリーの手へと纏わり着く。
指をちょい、と動かすと意思を持っているかの如く、1つに纏まり始めた。
「こぉんな、眼鏡をかけた翠の瞳の男の子とか?」
その湯気が段々と特定人物を形作っていく。
見た途端に、彼女の顔は髪の色よりも紅く染まっていた。
顔を俯かせ、口をもごもごと動かした。
――ハリー・ポッターがこの家を訪れた時の彼女を知っている者ならば、
口元に笑みを浮かべただろう。
無論、ウィーズリー夫人のそれにも笑みが浮かんでいた。
「だって――――パイの作り方なんて、知らないもの」
ジニーの肩を抱き、彼女を引き寄せると額にキスをした。
「大丈夫よ。母さんが教えるわ」
「でも、迷惑じゃないかしら」
心配そうに顔を上げるジニーに、母は優しく微笑んだ。
「まさか」
「ううん、きっとそう」
「ジニー」
撫でるように、ジニーの赤毛を梳く。
「私、彼の前で上手に笑えなかったわ。上手に話せなかった。きっと、可愛げのない子だって思われているに違いないわ」
瞳に、じんわりと涙が浮かんでくる。
「大丈夫よ」
モリーは繰り返し言う。
「ハリーはそんなことで人を判断する子じゃないわ」
「そうかしら…。」
「じゃあ、貴女はハリーがそんな子だと思っているの?」
ぶんぶんと勢い良く首を振り、ジニーは反論した。
「思っていないわ!!」
「そう、思わない。それでいいじゃない」
モリーがにっこりと微笑む。
「さぁ、小麦粉を計ることから始めましょう」
立ち上がり、ジニーの肩をポン、と叩いた。



広間に、いつも通りの風景が広がる。
バサバサと何羽かの梟が手紙や包みを持って、入ってきた。
歓声を上げる者もいれば、落胆した声を上げる者もいる。
たいてい、贈り物や手紙とはそんなものだ。
「おはよう、ハリー、ロン」
「おはよう、ハーマイオニー」
「おはよう。今日は何の授業があったっけ?」
同じ席に着き、彼らは挨拶を交わした。
スープの入った皿を脇にどける。
ロンは鞄の中から時間割を探し当て、机に広げた。
「最悪。一時間目から魔法薬学の授業だ。」
時間割を見た途端、ロンはげんなりした声を出す。
「どうしたらあの授業に、というよりスネイプに慣れることが出来るのかを学びたいものだわ」
パンを千切り、ハーマイオニーは口に運んだ。
ハリーもこんがりと焼けたベーコンを口に入れようと、フォークで突き刺したところだった。
「ヘドウィグが何か持ってるぜ」
言われて、彼は頭上を見た。
丁度良い具合に彼の両手に包みが落とされる。
そして、いつもの如くヘドウィグは梟小屋へと戻っていった。
「何かしら?」
「ジニーからだ」
「ジニーからだったら、今朝僕のところにも来たよ。母さんのと一緒に」
ハーマイオニーはピンと来たらしく、意味ありげに笑っている。
「今日はバレンタインだったわね」
「どうしてハリーだけ別に?」
「やぁね、だから意味があるんじゃない」
未だにクスクスと笑っているハーマイオニーを尻目に、
ハリーは包みをゆっくりと開いた。
少し歪だけれども、甘い、美味しそうな香りのするクリームパイがそこにあった。
短いメッセージカードが添えられて。


『ハリー・ポッター様。
 あんまり上手に出来なかったけれど、受け取ってくれたら嬉しいです。
母さんに教わって作ったから、味はきっと大丈夫だと思うの。
夏休みが終わったら、私もホグワーツに入学します。
その時に、また会いましょう。
                                        ジニー・ウィーズリーより』


プリペット通りに住んでいた頃、こんな風にプレゼントを貰ったことなどなかった。
ハリーは嬉しくて、思わず微笑んでしまった。
こうして自分が魔法使いだと分かってから、嫌なこともたくさんあった。
けれど、それ以上に楽しいこと、嬉しいことがあった。
これもその内に入るだろう。
「ロン」
「なんだい?」
分からない、と憮然とした表情でスープを流し込むロンにハリーは尋ねた。
「ジニーに手紙を書いてもいいかな?」
「構わないと思うよ。きっと、喜ぶから」
それを聞いて、ハーマイオニーはまるで自分のことのように、喜んで言った。
「そうね、そうするべきだわ」



翌日、ジニーの元へ一通の手紙が舞い落ちる。
それを見て、彼女が声も出せないくらい喜んだということを、
ハリーは知る由もない。


『ジニー・ウィーズリー様。
 美味しいクリームパイをありがとう。とても嬉しかったです。新学期が楽しみだね。
きっと、仲良くなれると思います。
                                      ハリー・ポッターより』


彼女の髪に映えるであろう真っ白なリボンが、
ストロベリーのポプリの香りを纏って同封されていた。


『追伸。きっと君に似合うと思って、贈ります。』






End

あとがき。
只今、ハマりかけております、ハリポタ小説でございます。
映画がみたいわ。
じゃなくて。
ジニーが可愛くて、こんなもの書いちゃいました。
バレンタイン小説。
これは、まだ一年生の頃の話だわな。
ここまで落ち着いていたかしら、この時期(笑)。

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