Properly
―――あの子どもを殺せぇッ!!
―――やめろ!!
目の前が真っ赤に染まってく。
何が起こったのかわからなかった。
そこには金蝉が倒れていた。
真っ赤な血を流しながら。
「金蝉―――ッ!!」
悟空は金蝉のそばにより、抱き起こそうと試みたが、
彼の小さな身体にそれが許されるはずもなく。
泣きながら、金蝉の名を繰り返し呼んだ。
そうしても、何も変わらないと心のどこかでわかっているのに。
「な、に、泣いてんだよ、バカ猿。バカ面がもっと・・・バカ・・・に見え・・・るぞ」
「だって、金蝉ッ、俺の所為で・・・俺が・・・!」
まだ少しだけ意識が残っている金蝉は、苦しそうにしながら悟空に話しかけた。
悟空は何を口走っているのか、自分でも良く分からない。
涙声で、どうにかして金蝉を助けたくて。
「悟空」
突然呼ばれた自分の名にびくりと肩を震わせる。
「俺は、もうすぐ・・・死ぬ。分かるな・・・?」
(神でも『死』があるのか)
金蝉は、自分が死の間際にいるというのに、落ち着いている自分に気付く。
悟空が首を勢いよく左右に振った。
「分かんねえ!分かんねえよっ!!」
「悟空!!」
再び、悟空の身体が震える。
「いいか・・・ら、聞け・・・」
大きく、呼吸をする。
苦しさがだんだんと増してくる。
「この世に・・・は『輪廻転生』と、いうもの・・・がある」
「りんねてんせい・・・?」
「『生まれかわる』ということだ。だから・・・」
彼は悟空を見て、微笑んだ。
未だかつて、彼の笑顔など見た事がなかった。
でもそれは、とても優しくて。
「そこにお前がいれば、必ず・・・見つけるだろうよ。記・・・憶がなくても、だ」
「嫌だ!俺はここにいる!!」
「腐れ縁な・・・んだよ、気持ちわり・・・ぃけどな」
(また、コイツと会うような気がする)
それが、当然のような気がした。
悟空と出会ったのが、『偶然』ではなく『必然』だったと。
いや、『偶然』は重なると『必然』になるのだ。
生きている者としての、本当の意味を教えられた。
どんな下らない事でも、いつだって嬉しそうに。
「金蝉・・・?」
「泣いてんじゃねーよ」
他の奴等が当然だと思っている事を、おかしいと言える勇気。
本当の強さ。
本当の優しさ。
それが、奴等にはあった。
「金蝉?金、蝉・・・?」
静かな時間。
聞こえてこない心臓の音。
凍り付いた呼吸。
閉じられた瞳。
もう。
「金蝉――――ッッ!!!」
二度と見られない紫暗の瞳。
悟空を捕らえようとする兵隊の人だかり。
観世音がそれをとめようとする。
「待て!!」
「観世音菩薩!」
二郎神がそれをとめる。
「邪魔してんじゃねえよ!」
「無理です」
観世音の罵声にも引かずに真っ直ぐに見つめ、彼は続けた。
「無理なんです・・・!」
忌々しそうに歯噛みする観世音。
「・・・ちっくしょう・・・ッ!」
神々の会議の真っ最中。
他の神々が意見を述べる。
それでも、一番つまらなさそうにしているのはやはり観世音。
「貴方の意見はないのですか、観世音菩薩。」
「これに何の意味があるんだよ」
「何を言うのです!」
「貴方はどこか、あの子どもを庇う傾向があるのではないか?」
深々とため息をつき、他の者を視線で威圧する。
「たかだか、ガキ一人を恐れるだけで何もできねえくせに」
「観世音菩薩!」
一人が、金切り声の様な声を上げた。
うるさいと言わんばかりに耳に片手を押しやる。
「今、金蝉童子が亡くなり、ナタク太子が自害を図り、捲簾大将、
天蓬元帥の死で軍隊も反乱を起こそうとしている!」
自分達が殺したとは、決して言わない。
「我々が動かなければならないのだ!」
「やはり、あの子どもを連れてきた事が間違いだったのだ」
観世音が口を開く。
「そうやって」
皆が観世音を見やる。
「悟空の所為にしていれば、楽だよなあ」
「『悟空』・・・?」
「あのガキの名前だよ」
そんな事も知らないくらい、彼らは下の様子には無関心だった。
自分達の保身だけで、その権力を守る為にだけ力を注いで。
観世音達から見たらどんなにその様子は滑稽だったろう。
観世音は舌打ちをして、荒々しくいきなり席を立つ。
「どこへ行くのです!?」
「・・・五行山への500年の幽閉」
観世音の言葉に、皆が騒ぎ出す。
「何?」
「そうすりゃいいだろ。要はここから追いだしたいんだから」
(お前等は、な)
彼らがどう考えようが、もう興味も湧かなかった。
500年もあればあの子どもをどうにかする方法が見つかるかもしれぬ
とか、好き放題に言っている奴等の事など。
そのときの観世音の瞳はどれほど凍り付いていた事だろう。
―――五行山への500年間の幽閉を命ず
その判決を見ながら観世音が呟く。
先にも後にも、たった一度だけの弱音。
「悪ぃな、金蝉。俺だって、何でも・・・出来る訳じゃねえんだ」
観世音は顔を俯かせ、自分の手にその顔をうずめた。
「あいつは、お前を待っているんだよ」
―――見つけてやれよ、金蝉
とある宿にて。
「なあ、三蔵っ!腹減った!!」
三蔵は、悟空の声など聞く耳もたずで新聞を読んでいる。
「三蔵三蔵三蔵―――ッ!!!」
「うるせぇっ!!」
辺りにハリセンの音が響く。
大体こっちは三蔵と八戒の部屋で、そこに悟空が来ているのだ。
八戒は、悟浄と悟空の部屋へ行っている。
「八戒に言え、そういう事は!」
「だって、八戒が三蔵に言ってみろって!」
(あの野郎、押し付けやがったな・・・!)
八戒が一番恐いのはこういう時である。
物言いは優しいのだが、それは真綿で首を絞められるような優しさの時もあり。
「ったく、何でお前なんかを見つけたんだろうな、俺は」
面倒くさそうに、椅子から立ちあがる三蔵。
「だって、絶対見つけるって言ったじゃん!」
「は?」
「へ?」
何を言っているんだという視線。
悟空も何を言っているのか分からない。
「・・・誰が言ったんだっけ?」
「俺が知るか!」
再び響くハリセンの音。
「ってー!何すんだよ、暴力タレ目!!」
「死ぬか?」
悟浄達の部屋。
隣から響いてくる音を尻目に、お茶を飲んでいる八戒。
部屋を隔てている壁を無言で眺めていた悟浄。
「八戒・・・お前いい性格してんな」
「ありがとうございます」
「・・・・・・・」
彼は悟浄の苦情にも、笑顔で答えた。
「いつものことでしょう?」
「まーね」
どちらに対しての言葉か分からないが、悟浄も笑いながら返答する。
観世音はそれを面白そうに眺めていた。
「やっぱ、アイツ等はああじゃねえとな」
「観世音菩薩、貴方も随分楽しそうですよ」
二郎神の言葉に、笑いながら振り向く。
「そりゃ、可愛い俺の元甥っ子だからな」
(今は、『玄奘三蔵』、か)
どこか寂しいような、でも、それを面白がっている自分がいる。
「二郎神」
「はい?」
「一番分からねえのは、自分自身なんだな」
彼は微笑んで、観世音を見た。
「そう、ですね」
水面に、蒼い空が映っている。
流れ行く雲の運命は、風だけが知っている。
花びらが水面に舞い降り、波紋を広げた。
―――それが一番お前らしいよ、『玄奘三蔵』
END
あとがき
『Sun Shine』の天界編の続き(?)のようなものです。
誰が主人公なのだか分からなくなってしまいました〜(汗)。
観世音菩薩様なのでしょうか?(知りません)
さて、どれ程原作と違ってくるか見物です。
殆ど違うでしょうね。
今回、『不可能はない』観世音菩薩様に弱音を吐かせてみました。
イメージ崩れた方はすみません。
でも、出来ない事がないと思えるのは、なんでもやろうとしているからです。
やってやれない事はない、ですね。
それでも、どうにも出来ない時が、自分自身が一番悔しい時なのでしょう。
そういう意味で、観世音菩薩様にああいう台詞を言わせてしまいました。
何も出来ない自分ほど、歯がゆいものはないでしょう。
・・・しかし、観世音菩薩様は両生態ゆえ彼女や彼を使えないのが大変でしたね。
他に言いようがないのですよ。題名の意味は『らしい』です。
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