Sun Shine
太陽が目の前にあった。
でも、それは眩しすぎて、
俺が触れちゃいけなかったのかもしれない。
そうだったとしても、俺はそばにいたかった。
そばにいたかったんだ。
いつも通りの日常。
それは、悟空が金蝉の部屋で遊んで、書類をばらまいている情景。
そして、その悟空を金蝉が怒鳴っていることも含まれているに違いない。
「悟空ッッ!!」
「何だよ、いーじゃん!ちょっとくらい散らかしたって!!」
悟空の言う"ちょっと"は世間一般で『大分』と言う。
口を尖らせて文句を言う彼の頭めがけて、金蝉が腕を振り下ろす。
「うるせぇッ!!さっさと片づけねえと晩飯抜きにするぞ!!」
「げっ、マジで!?」
悟空は金蝉の言葉に慌てて書類を集め始めた。
その様子を眺めていた彼は、思い出したように悟空に視線を向ける。
「悟空、印鑑押してるやつもあるから区別しろよ」
「インカン?」
「・・・・・・これだ」
机の上にあったインカンを持ち上げ指差した。
見覚えのあるものに、悟空は声を上げる。
「あ!金蝉がいつもポンッて遊んでるやつ!!」
「殺すぞ」
誰が遊んでいる、と言外に含んだ声音で返答する金蝉。
そのとき、キィッと扉の開く音がした。
「おや、御取り込み中ですか?」
天蓬が顔をのぞかせる。
「あっ!天ちゃん!!」
「・・・何しに来た」
悟空は、いそいそと書類をかき集め、机に乗せた。
走って近寄ってきた悟空の頭を撫でながら、金蝉に言葉を返す。
「御挨拶ですねぇ。まぁ、貴方に愛想よく迎えて欲しいなんて言いませんけど」
「なになに?遊びに来たの?」
「ええ、金蝉で遊びに来たんですよ」
「・・・・・・・・・・」
(帰れ!!!)
何か言っても、口でかなうわけはなく。
が、黙っていればこのまま、あらぬ方向に話が進むのは間違いない。
「・・・天蓬、お前一体何しに来た?」
天蓬は悟空に御土産のケーキを渡し、金蝉に歩み寄る。
「御機嫌斜めですか?」
「誰の所為だ」
あはは、と軽く笑い、彼はふと真剣な顔に戻った。
「金蝉」
一息おいて、もう一度口を開く。
「捲簾に大将解任命令が出ました」
「・・・知っている」
「このまま、李塔天を野放しにするつもりですか?」
重たい空気が、沈黙をもたらした。
悟空はケーキに夢中で話は聞こえていない。
聞こえたとしても、意味は分からないだろう。
「俺に何が出来る?あれは天帝の意志だ」
「形だけの?」
嘲笑を含んだ天蓬の笑みに、金蝉の表情が一瞬強張った。
(金蝉・・・?)
悟空は、彼らの話に加わらないまでも、表情は見える。
しかし、入り込めない雰囲気は否めない。
「上の連中が何しようが知ったこっちゃないですけどね、
こっちに被害がきたら黙っていられませんよ」
「天蓬・・・お前どこまで知っている・・・?」
「どこまでが知られちゃいけないことなんです?」
「・・・・っ!」
口でかなうわけがない。分かっていたはずだ。
天蓬と金蝉の間に再び沈黙が走る。
「金蝉!!」
それをぶち破る悟空の声。
はっと、正気を取り戻した様子の金蝉。
一瞬で、いつもの笑顔を見せる天蓬。
「どうしたんです、悟空」
「腹減った!!晩飯食いたい!!」
気付けば、とっぷりと日が暮れている。
どうやら、悟空にとってケーキは腹にたまる物ではないようだ。
「ちゃんと、片付けただろ?な?金蝉〜」
金蝉の肩に乗り、悟空は催促した。
「分かったから降りろっ!!」
彼は首根っこを捕まれ、金蝉から引き摺り下ろされた。
大きくため息をつき、扉に向かう金蝉。
悟空はそれに続いた。
「天ちゃんも一緒に食うの?」
「金蝉がいいって言うのなら」
「金蝉〜」
「勝手にしろ!」
「やった♪」
悟空は、天蓬に満面の笑みを向ける。
天蓬も、つられて微笑んだ。
(金蝉も、捲簾も俺もこの笑顔に救われているのかもしれませんね)
そして。
(あのナタクでさえも)
「なあ、ケン兄ちゃんは?」
「捲簾なら、昨日悟空が縛り付けたときからずっとあのままですよ」
「ふーん」
「・・・・・」
金蝉は、冗談とも本気とも取れる天蓬の言葉に閉口しざるを得ない。
金蝉には聞こえない程度の声で、悟空は天蓬に呼びかけた。
「・・・天ちゃん」
「何ですか?」
悟空は少し言いにくそうに口を開く。
「あの・・・さ、金蝉、あんまりいじめないでくれなっ」
「え?」
あまりの唐突な話に、天蓬は一瞬呆けてしまう。
「俺、天ちゃんも、金蝉も好きだから、だから・・・っ」
彼は、いつもの笑みを浮かべ、悟空の頭にポンッと手を乗せる。
「大丈夫ですよ」
(いい子だなあ)
「俺も、金蝉が好きですから」
ぱあっと悟空の顔が明るくなる。
「うんっ!」
二人で何を話しているのか聞き取れない金蝉は、怪訝な顔をして振り向いた。
「おいていくぞ」
「あっ、待てよ金蝉っ!」
悟空は天蓬の手をひき、慌てて金蝉の後を追った。
ケン兄ちゃんが死んだ。天ちゃんが死んだ。金蝉がナタクが。
俺の目の前で。
『金蝉―――ッッ!!』
だんだんと冷たくなっていく金蝉の体。
でも、目の前がぼやけて何も見えないんだ。
真っ赤な血が、床に流れ出して。
止まらなくて、河みたいで。
俺が、そばにいたから?
だから、皆死んじゃったのかな?
金の瞳は、不吉だって言われてて。
だから、皆は。
『五行山へ500年間の幽閉を命ず』
冷たい洞窟の中で、俺は段々頭の中が真っ白になっていった。
空を見て、太陽だけを求めて。
「おい、お前か。俺を呼んでいたのは」
悟空は、呆けた顔で少年を見上げた。
「は?俺、誰も呼んでねえけど」
「いいや、嘘だね。俺には聞こえてたぜ」
少年は不機嫌そうな顔をして、悟空を見下ろす。
「うるせーんだよ、いいかげんにしろ。だから」
太陽の輝きを纏った少年は、悟空に手を差し出した。
「連れてってやるよ、仕方ねーから」
悟空は、その手にすがるように無意識に掴んでいた。
―――――ずっと望んでいた、その金色の光に
END
あとがき
悟空の話なのか、金蝉達の話なのかわからなくなりましたけど、いかがでしたでしょう?
一回、停電して書き直しました、これ。母さまのうつけものーッ!!全部落ちましたよ、
家中。部分的なら良かったんですけど。(泣)
所々、(っていうか終わりの方です)台詞が曖昧で、多分少し違うと思われます。
が、気にしないでくださいませね♪しかし、太陽なのに真っ暗な画面ですね・・・。
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