議題:ハロウィン |
暗い。 外は明るいはずなのに、部屋の中が異様に暗い。 カーテンは外界の明かりを遮断するかのように締め切られている。 ぼんやりと灯る薄明かりの傍の人影に、南部はふぅ、と息を吐いた。 「今日はハロウィンについて話し合いたいと思う」 ―――何かが根本的に違う…! 教卓に置かれたジャコランタンに灯された明かりは、 薄ぼんやりと部室の中を浮かび上がらせている。 魔法使い、と言うよりも黒の教団でもあるのかと言わんばかりの黒マントにとんがり帽子を被っているのが部長の赤井だ。 「ハロウィンと言えば仮装と悪戯だよね」 すでに何故かピエロのメイクと衣装がばっちりな青山は頬杖をついて足を組む。 仮装と言えば仮装なのだがむしろこれは仮装大賞にでも傾きそうな仮装である。 モンスターでも何でもない。 「なるほど。だから今日はこんな恰好をしなければならんかったのか!」 がっしと南部が緑川の肩を掴む。 「待て、緑川。頼むからそのままでココから出るな」 目出し帽にライフルを構えた緑川が得心してしきりに頷けば、 彼の行動にも納得できるのだが、今は部活動。 彼らの部活動のルールには南部の一般的に常識的と言われる行動など、 関係ないと言うか、後でどうにでもなると言うか、 どうにでもしてしまうと言うか―――つまりどうでもいい。 とは言えそんな恰好で出て行かれた日には、放課後と言えど、 否、だからこそ不審者どころの話ではすまない。 ハッキリ言って、面倒ごとは御免被りたかった。 「そうだ。簡単に言ってしまえば、ハロウィンとは『トリック・オア・トリート』と叫びながら子ども達が家々を脅してまわる悪の行事なのだが」 「違う」 一体ドコでどうそのような知識に摩り替わったのか甚だ疑問ではあったが、とりあえず突っ込む。 「南部顧問、言いたいことがあるなら挙手願おう」 (怒られた!) ふと視線を感じ、振り返ろうとして思い留まる。 ぼそぼそと何かが呟かれ、かりかりと何かをメモする音が聞こえた。 「何じゃ、爺ちゃん来とったんか」 「…菓子は落雁か饅頭がええ…」 ごそりと現れた緑川の元探偵の祖父はこれはまた見事な、 (…ナマハゲ!?) だった。 段々とハロウィンから遠ざかっていく雰囲気に早く帰りたいと南部が思うのも無理はない。 無いのだが、それが叶うほど甘くもない。 「悪戯と言えば、南部先生のロッカーに今朝仕掛させて貰ったよ」 「オレのロッカーに血文字で『推参』とか書いてたのはやっぱりお前らか!!」 「いやいや、『推』の字が何気に難しくてなぁ」 「やかましいわ!!」 「本当はロッカーに緑川が潜み、開け放った瞬間に襲い掛かった所をすかさず青山が羽交い絞めにし、仕上げとして」 「何の嫌がらせだ」 「ともかく、お菓子を貰えねば悪戯をせねばならぬという鉄の掟があるらしいこの行事は」 「言わせて貰うが、それはすでにハロウィンじゃない」 律儀に挙手をして意見する南部に、一瞬だけ視線を向けた赤井だったが、 すぐさま目を逸らしあからさまに溜息を吐いた後、 何事も無かったかのように口を開いた。 「南部顧問のおかげで先程から話が全く進まないのだが、つまりは我々もこの行事に興じてみようと言うわけなのだ」 (ムカつく…っ) 赤井の黒マントの下からすっと小箱が取り出され、南部の前に差し出された。 「南部顧問」 「何だ、これ?」 「開けて頂きたい」 言われたままに小箱の蓋を開けてみる。 すこん。 飛び出してきたオモチャの鳩の嘴が南部の額に突き刺さった。 「ナイストリック」 「大成功じゃあ!」 拍手を捧げる青山の隣で両腕を天井に付き上げ喜ぶ緑川と、 『どっきり☆とりっく』のプレートを掲げている緑川の祖父が目に入った。 「…赤井?」 くるっくーと鳴く鳩が左右に揺れる箱を持ったまま、 南部は教壇に立つ赤井を仰ぎ見た。 「身近な悪戯を再現してみた」 「せんで良い。そして菓子をやる選択肢は無いのか!」 「それは子どもだけなのだろう?」 「…お前らが今やってることは何だ」 「我々は奇しくも高校生。ならば残る選択肢はただひとつ、悪戯をするしかないのだ!」 (迷惑極まり無い―――…!!) 脱力するのを感じながら、南部は椅子に凭れかかる。 すっと眼鏡を指先で押し上げながら、赤井は姿勢を正した。 「では、本日は南部顧問の帰り道に仕掛けた悪戯を検分しながら解散!」 「いつやった――――ッッ!?」 帰り道、仮装したままの部員+αの電柱の影から投じられる視線と、 周囲から囁かれる不審の声に耐え、 尚且つ降りかかる悪戯から身を護りながら帰途を急ぐ南部だった。 END |
あとがき。 |
ほんともう復活してくれないかなあの漫画 |
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