Calm World




ねぇ、覚えてる?
私の言ったこと。

貴方が死んだら、
私も死ぬから。

死ねないかもしれないけど、
絶対死ぬから。

でもね、我侭なのかな。
私が死んでも、
貴方には死んで欲しくないなんて。

だけど。
ずっと、傍にいるからね。
今度こそ。





焔。




ガラガラと音を立てて崩れていく新世界。
誰が望んだものだったのか。
今となっては分からない。
あの、
太陽の色と同じ花が、
一面に広がる。
蒼い空には、白い雲が流れて。
ただ、ゆっくりと時間が流れるように感じた。


一人。


眠っている者がいる。
現世へと続く扉の傍で。
扉はもう、閉じられてしまったけれど。
その双眸は、二度と誰も映さない。
二度と、開くことはない。

止まることのない崩壊。

彼の望んだ世界は、
崩れていく。
一面の花畑は、
赤土にまみれ、つぶれていく。
段々と岩肌が露になって、
美しい世界は、
一変して、
荒廃したものになった。

これは、誰が望んだもの?

ふわり、と。
柔らかい風が、
彼の頬を撫でていった。

『焔』

この世のものではない声が、

響いた。

その声は、優しく、穏やかで。
この崩れていく世界には不似合いだった。
岩と岩がぶつかり合い、
鈍い音が耳障りであるにも関わらず、
その声だけは、
はっきりと聞こえる。

愛しい人を呼ぶ、その声が。

『焔』

長い髪を二つに結った、
少女のあどけなさを残した女性。

かつて、
『鈴麗』と呼ばれていた者。

彼女は、焔の傍に歩み寄った。
足音は、大地が崩れていく音にかき消されていく。
あたたかい、光のような微笑。

『ごめんね、焔』

そ、と彼の頬に手を触れる。
穏やかに眠る彼に、
胸が締め付けられた。
笑顔のまま、
その瞳から涙が零れ落ちる。

『ずっと、傍にいるって言ったのに…』

彼の頭をぎゅ、と胸で抱きしめた。

『一人にして……ごめんね…』

繰り返される謝罪の言葉。

『焔…っ』

本当はずっと傍にいたかった。
例え、それが




神に背くものだったとしても。




不意に、鈴麗は目を見開く。

『……っ?』

ゆっくりと開かれる双眸。
その瞳は、
黄金と蒼のオッドアイ。
彼女の手に触れて、静かに見上げる。

『…鈴…麗…?』

『…っ!』

驚きと喜びで、彼女は漏れそうに嗚咽を抑えるように、
両手で口を覆った。

『焔…っ』

俯いていた顔を上げ、
ゆっくりと、
彼の首へと腕を回す。

『泣いて…いたのか…?』

自分の首に、子どものように縋りつく彼女に、
問い掛ける。
彼女は首を振った。

『悲しくて、じゃないわ』

少し離れて、彼へと微笑む。

『貴方とまた会えたから…』

両手で、彼の頬に触れた。
焔は不思議そうに、彼女を覗き込む。

『嬉しくて涙が出たの』

そう、今のこの涙は。

焔も彼女に微笑みかける。

『そうか…』

崩れ落ちていく空。
その割れ目からは、
どす黒い紅が見え隠れしている。
この世のものではない。
ねじれた空間が、
耐え切れず、この世界を飲み込もうとしているのだ。

『お前に…見せたいと思っていた』

『え?』

『この世界を…』

美しい、隔たりなどないこの世界を。
共に、歩みたいと思った。

『あの花畑のような美しい世界で、共に生きたいと思った』

クスリ、と彼女は笑う。

『バカね』

『?』

『私は…』


焔と向き合って、涙を拭う。
彼女は、こつん、と額を合わせた。

『焔と一緒なら地獄だって構わないわ』

綺麗じゃなくていい。
全てが思い通りにならなくてもいい。
ただ、




貴方といることが出来れば。



それだけで。


『私は倖せよ』


『鈴麗…』

壊れていく世界の中で、
やっと、
本当の倖せの意味を見つけた気がした。


『今度こそ、ずっと一緒だよ、焔』

『あぁ、どこにも行かない』

鈴麗の身体を引き寄せ、
抱きしめる。
彼女も、焔の背に手を回した。


『一緒に、行こう』


愛おしそうに甘いキスをして、


ゆっくりと、二人は目を閉じた。


この、壊れ行く世界の中で。







END

あとがき

初めて書いた、焔殿×鈴麗殿です〜。っていうか、書いている人のが珍しいか(笑)。
この二人書くと、すっごく恋愛モノになってしまうと言うことを知りました//////。
クサイし、甘いし、もー……どうしましょうか?!(知るか)
焔殿、生き返ったわけではないので、あしからずです。
魂魄みたいなものですね、二人とも。
確実に崩れていく世界の中で、
ゆっくりとした時の流れを描きたかったんですが、いかがだったでしょう?