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捨てた名前がある。
手に入れた名前がある。
けれど、『彼』はそれを織らない。
織られてはならない。
決して。
決して。






―――ガゥン、ガゥン、ガゥンッッ!!


連続して、銃声が響き渡る。
素早く充填して、次の発射に繋げる。
薬莢のカラカラと乾いた音が台の上に広がった。


―――まだよ、こんなんじゃまだ…ッッ!!


白い指先が、黒く重たいトリガーを何度も引く。
振動はその度に伝わり、痺れを腕に齎した。
けれど、気にする様子も無く、連続して発砲する。
数十発撃って、ようやく気が済んだのか。
ひとつ息を吐いて、耳当てを肩の上に降ろした。
「見事だな」
背後からの声に、あからさまにびくりと肩を揺らす。
「あ…ケイ…ン…」
ケインの姿を確認すると、強張らせていた体を緩める。
まだ緊張したままの表情のまま、彼女は無理やり笑みを浮かべた。
彼はそれに違和感を感じたが、敢えて何も言わない。
ここは、今回滞在しているホテルの傍の射撃場。
そこへミリィが行きたいと言い出した。
「結構、撃ってたみたいに聞えたんだが…?」
射撃場の目標を見て、不思議そうに声を漏らす。
それもそのはず。
ちょうど真ん中。
目標であるダミーの顔の中心に、1つの穴が開いているだけだったからだ。
「えぇ、そうよ」
ガチャン、と充填して安全装置をはずす。
耳当てもしないまま、一発放った。


―――ガゥンッ!


狙いを外すことなく、たった1つの穴に吸い込まれる弾丸。
ケインは感心したように口笛を鳴らす。
「どうしたらあんなに撃てるんだ?」
「『目標』があればいいのよ」
耳当てを外して、ケインに渡す。
着けろ、と言外に言っているようだ。
自分は何も耳に当てないまま、連続発砲する。
それらも全て的の中心にヒットした。

「        」

何事か、ミリィが口を動かしたが、
銃声と耳当ての防音の所為で何を言ったか分からない。
「ミリィ?」
銃声が止んで、耳当てを外す。
「何?」
視線を目標から少しも動かさずに返事をする。
「・・・『目標』、って?」
彼女ならば、

『宇宙一』の為よ。

そう軽く答えてくれると思った。
否。答えてほしかった。


けれど彼女は悲しげに笑みを浮かべるだけで、首を振った。


「秘密、よ」


言える訳がない。





祖父を。
『ナイトメア』の総帥スターゲイザーを殺す為などと。







「おい、ミ…」
ジャキ、と銃を目標へと片手で構える。
片方の手は、ケインの口元へ。
彼の唇を指先で抑えた。
「乙女の秘密を織りたがるもんじゃないわ」
にこ、と笑って視線を目標へと向ける。
彼女の手元の銃を見やれば、銃弾は1発しか残っていない。
「ついでに言うなら」
ホルスターに指を掛け、力任せに回転させた。
ガチャリ。
ランダムでソレを止める。
そして、撃つ。


―――ガゥンッ!





「『運』も必要かもね」




不敵に笑って、彼女はケインに視線を戻した。
彼はどこか悲しげにミリィを見つめる。
「何?」
「いや」
言って、顔を背ける。
掛けていた耳当てを台に置いて、ミリィの隣を横切る。





「最高に憎い相手を撃つみたいに、がむしゃらに撃っている気がしただけだよ」





ぽん、と彼女の肩を叩いて外に向かうドアへ歩む。
マントが風で翻った。
ドアが開き、閉じる。
彼が出て行ったことを確認して、息をつく。
カタ。
ミリィは持っていた銃を台の上に乗せた。
その手は微かに震えている。
手が、薬莢の入っていたケースを引っ掛けた。
バラバラと、薬莢が床に散らばる。
「あ…いけない。私ったら…」
慌てて屈んだ。







「言えない」






泣きそうになるのを、必死でこらえる。





「言えないよ…」





手で口を覆い、座り込む。
「…ケインのとこ、戻らなきゃ」
頭を振り、立ち上がろうとするが、力が入らない。
「やだ」
支えに使おうとした手さえも、力を失い地に落ちる。




「上手く、笑えない…」




そのまま蹲って、声を押し殺した。




泣きたくても、泣けない自分がもどかしくて仕方がなかった。







ケインは、外に出ると同時にため息をつく。
彼女、ミリィが隠し事をしているのは織っていた。
いつか、話してくれるものだと思っても、それがいつなのか分からない。
「まだ、駄目なのか…?」
しかし、自分も隠し事をしている身。
そんなことを言える筋合いではない。
「お互い様、か」
苦笑して、ドアから離れた。







『時』が、刻一刻と近付いていた。






『巻き込んで、ごめんなさい』




ケインに聞えないと分かっていて呟いた台詞。
いつか、届けなければならない台詞。
けれど、その『時』までは。




どうか、どうか。
私を傍にいさせて下さい。









END
あとがき。
ミリィのイメージソング聞いていて思いついた話です。
『強がりの裏に銀色の孤独。腕を磨くほど時に辛いケド。』
何となく、ですけどね。
ミリィって、普段明るくし過ぎって言うか、
何か弱い部分を必死に無かったものにしようとしている感じがするんです。
強がって、強がって。
誰かに手を差し伸べられても、素直に掴まることが出来ないような。
「私は一人でも大丈夫よ。」
とか言って、するりとそばをすりぬけていく感じ。
私の勝手な思い込みカシラ?(笑)