例によって例の如く。 腕が壊れたと連絡も無しに故郷に帰ってみれば、 怒涛の怒りをスパナに込められ、力の限り殴られた。 |
その色に込められた意味を知るには十分過ぎるほど私達は傍に居た |
ずきずきする頭を摩りながら目前の少女を睨んでみたが、 当の彼女はどこ吹く風でそつなく整備をこなす。 もしくは、先程のことなどすっかり忘れているのかもしれない。 そう思うと泣けてきた。 「エドはドコにいても目立つわね」 機械鎧の腕から引き出された神経部分とにらめっこしながら、 ウィンリィはひとり納得したように頷いた。 「そうか?」 「コートは紅いし、瞳も髪も鮮やかな黄金だし」 適当に結い上げた髪を指先で摘んでみるが、今まで付き合ってきた自分のものだ。 瞳が珍しい色だという自覚くらいはあっても、目立つも目立たないも分からない。 傍でデンと戯れていたアルフォンスが声を上げて笑った。 「あはは、悪目立ちってヤツだよね」 それが兄に対する言い草か。 不満を思いっきり視線に乗せて、エドワードは鎧姿の弟を睨んだ。 「言っておきますがアルフォンス君。君も相当目立ってマスヨ」 「目立ちたくて目立ってるんじゃないやい!」 どんなに厳つい鎧の姿でも、中身は多感なお年頃。 前掛けをフンドシ呼ばわりされるわ、鎧姿を変人扱いされるわ、泣きたくもなるというものだ。 だが、否定しようとしても、否定するだけの要素がなければどうにも出来ない。 ウィンリィはくすくすと笑いながら、道具箱から螺子を幾つか取り出した。 ぼろぼろになっているそれと型を照合する。 「私は安心するけどな」 持っていたドライバーを置く少女に、アルフォンスは首を傾げる。 「そうなの?」 こくりと頷き、ウィンリィは微かに目を伏せた。 もしかしたら機械鎧を見下ろしていただけかもしれないけれど、 それでも、俯いたように見えた。 「ソウなの。色が見えるのって落ち着く」 決して風景に溶けない君の色。 浮き出された、鮮やかな。 ―――君が見えなくなったその後まで、色濃く残る残影 「…けど、って続きそうな言い方」 ぽつりと漏らされたエドワードの台詞に、一瞬だけ動きが止まる。 今まで黙って聞いていたくせに、どうしてこんな時だけ聡いのだろう。 口を開きそうになって、閉じる。 「…エドの気のせいよ」 上手く笑えた自信はない。 ウィンリィは歯噛みしそうになるのを堪えた。 ―――…だけど、その色は哀し過ぎる 言おうとしなかった言の葉。 決して溶けない色は、溶けるつもりが無いから。 いつまでも色濃く、強く、自分に知らしめる為。 ―――君はいつまで、その色を纏い続ける? 視線を逸らして、エドワードはそうか、と呟く。 そうすることしか出来ない気がしたのかもしれない。 「気のせいか」 それは正しくその通りで、少女がそれ以上を語ることは無かった。 「気のせいよ」 頷いて、ウィンリィは少年の台詞を肯定する。 中断されていた整備が再開された。 ―――自分のこと指摘されると、気まずそうにするのはそっちじゃない 手元が狂うこと無く、ウィンリィは黙々と作業を続ける。 ―――認めたら認めたで、どうせ関係無いとか言うんだわ ぱちん、と小気味良い音をさせて長すぎる神経のチューブを切る。 ―――…何か、段々無性に腹が立ってきた 全ての作業を終えて装甲を閉じると、沸々と怒りが込み上げてきた。 そんなウィンリィの葛藤を織らず、気まずそうにするエドワード。 無言の重圧を見かねたのか、呆れたようにアルフォンスが嘆息した。 「兄さん、ウィンリィ、喉渇かない?僕、お茶淹れてくるよ」 デンを撫でてやれば、アルフォンスの足元に擦り寄ってきた。 ぱたぱたと振る尻尾を眺めながら、エドワードは思い出したように口を開く。 「そういや、中尉にお勧めとか言われて何か貰ってたな」 「リザさんに?飲みたい!」 ぱ、と顔を上げたウィンリィは、普段と寸分違わない笑顔でアルフォンスを見上げた。 今さっきまでの雰囲気を吹き飛ばそうという健気さはどうにも見当たらない。 ―――コイツ、本気でさっきのこと忘れてんじゃ無ぇだろうな 当たらずとも遠からず、などとエドワードは知る由もない。 少しでも心配したのは何だったのか。 そもそも、心配すること自体が無駄だったのか。 呆気にとられて、エドワードとアルフォンスは顔を見合わせた。 「…女って現金な」 「何よぅ」 「ハイハイ、行ってきまーす」 再び喧嘩を始めそうな2人を宥め、アルフォンスはデンを伴って部屋を出て行く。 溜息ひとつ漏らすことも忘れずに。 「いつの間にか仲直りしちゃうんだよね、昔から」 ねぇ、とデンに話しかければ、ワン、と一声楽しげに吼えた。 深紅は戒めの血の色。 漆黒は喪に服する色。 君が選んだその色の理由など、とっくの昔に気付いてた。 それでも君は気付かない。 いつだって、地上を照らすのは黄金の太陽。 君を彩る、COLORS. END |
あとがき。 |
エドウィン企画サイト様に投稿してたブツ。 『企画』にあるエドウィン的増殖お題の013.COLORSの長文バージョンです。 いやそんなに長くも無いけども(爆)。 |
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