願ってはダメだ。 |
Guilty |
不意に、光が飛び込んできた。 あまりの眩しさに、思わず眼を細める。 「……ヒカリ…」 手を翳して、空を見上げた。 うっすらと分かる、円形状の輪郭は、それさえも虚ろにしてしまうほど輝いている。 見下ろせば、堅い岩肌が暗がりの中で赤茶けて見えた。 「岩…」 暗く、狭い岩牢には所狭しと封印呪が施されている。 幼子の両手足にさえ枷となった呪が絡み付いていた。 牢の傍に、小さな花が咲いて見える。 何と言う花だろうか。 虚ろな瞳は、底から見える全てのものを映し、 そうして、それが何なのかを織り得た。 ただ、分からなかったのは。 「俺、どうしてココにいるんだろ」 己の存在理由だけ。 ぽつりと流れ出した涙に、重たい手を伸ばした。 「涙…?」 涙で覆われた瞳は、より多くの光を視界に運んだ。 「どう、して…?」 拭っても拭っても零れ落ちてくるソレは、悟空をますます困惑させた。 胸が締め付けられる想い。 壊れてしまいそうな心。 狂ってしまいそうな意識。 けれど、それらをも凌駕する忘れ去られた記憶。 忘れてしまいたいのに、絶対に忘れてはならない記憶。 想えば想うほど、失われていく記憶だった。 確かに、ここに入れられたばかりの頃は覚えていた。 泣いて。 泣いて。 泣き続けた。 誰かの名前を叫びながら。 時間が流れる毎に、それは薄れて行き、 一体、何のために、誰の為に泣いているのかさえ分からなくなった。 『待っていろ』 時々、不意に思い出される声。 誰の声だったかさえ、もう思い出せない。 『気の遠くなるほどの時を、待っていろ』 掠れ行く、霧のように掴むことができない。 『独りで、待ち続けろ』 けれど、それは確かな言霊。 『それが、お前の受けるべき罪咎だ』 待て、とその声は言う。 ならば、一体どれほど待てば良いのだろうか。 一体、何を待てば良いのだろうか。 分からぬまま時は過ぎ、過ちは忘れ去られてゆく。 「どうして」 決して、忘れてはならない罪だというのに。 「思い出せないんだ…っ」 罪も過ちも全て、忘れてはならないと心が叫ぶから、 忘れたその分だけ心を蝕んだ。 差し込んでくる陽の光が温かいから、 心をやわらげてくれたその分だけ、己を咎めた。 許されてはならない。 せめて。 せめて、全てを憶えていたのなら、 名も織らぬ誰かを想って泣けるのに。 せめて。 せめて、全てを忘れさせてくれたのなら。 「素直に、太陽に焦がれることが出来るのに…」 手を伸ばすことすら躊躇われる、神聖な輝き。 悟空は織らず、涙を流し。 悟空は織らず、想い焦がれた。 心優しき、禍々しい獣。 大地の愛子は、何も織らずとも、全てを織っていたのかもしれない。 「だけど、それでも俺は…」 格子へと手をかけて、空を仰ぎ見る。 細く、傷付いた腕を一心に伸ばした。 「光りを信じたいと思ってるんだ…っ」 許されるはずがないのに、と呟いて。 そうして、時は流れ、太陽はいつも暗闇を照らしてくれる。 爽、と勿忘草が風に揺れた。 END |
あとがき。 |
何となく思いついたハナシ。 暗いなぁ。 途中のセリフは、間違いなく観音様デス。 希望をなくさないように、といったセリフ〜みたいな。 でも、希望をもつそれこそが悟空殿にとっての罪咎にも思えて。 |