<ロスト・ユニバース>
■サマーナイト・クッキング■


「ねぇケイン、夏の暑さから思い浮かぶ食べ物は?」
そう聞かれたのが発端だった。
普段生活している宇宙船内は、隅々まで温度調節が行き届いている。
だから、暑さ寒さに関しての食事というのは、あまり気にしたことがない。

「夏といえば、良く冷えたビールだろ」
「冷たいビールも夏のものかも知れないけど、そういうんじゃなくってぇ。……他に何かない?」
「かき氷とか、アイスクリーム」
「それでいいってのなら夕食、かき氷のフルコースにするわよ」
かき氷のフルコースとは、聞くだけで冷たそうなメニューである。
そして、ミリィの腕前なら作ってしまいかねない。
「だってな、今まで気にしたことはなかったし……宇宙にいたら季節感すらなくなるわけだし……」
「それじゃだめなのっ!せっかく旬のものがあるんだからそれにあった食生活をしなきゃ」
「旬のもの?」
「そっ。というわけで、明日は鰻丼に肝吸いね」
「はぁっ?」
「というわけで、これからお買物。行ってきまぁすvvv」
「って、をい?」
走り出したミリィの腕を一瞬遅れてつかもうとしたケインだが、それより先に彼女の体は気密室へ続く扉の中に消えた。程なくして、分離するシャトルの振動が伝わってくる。
「……また、何でいきなり鰻なんだ?」
ケインにはさっぱり意味がわからなかった。

しかし。
希望するものを買って帰ってきたミリィがつまづいてしまい、ソードブレイカーの廊下に鰻を踊らせてしまうことになるとは、そして、それに驚いたキャナルがパニックに陥って30分ばかりライフシステムを止めてしまったことなどは。
地表に降下していくシャトルを見ていた時のケインには、全く予想できなかったことだった。



******

<ロスト・ユニバース>
■思わぬところで■


パァンッ!!

叩き付けられたようにして勢いよく割れた小さなガラスポット。
「あーあ、帰ってきたら怒られるわよぉ?」
くすくす笑いながら『もしかしたら、夕飯抜きかも知れませんね』と、キャナルは割った犯人の顔を見た。
「ミリィはそんなに心の狭い奴じゃない。わざとじゃないってちゃんと謝ったら、ちゃんと許してくれる」
「そう言い切れる?」
「当り前だろ。じゃなきゃ、俺が今までやってきたことにとっくに愛想を尽かしてるさ」

「尽かしてるんじゃなくて、諦めているんだから仕方ないじゃない」

背後からの声に体を強張らせるケイン。
「あら、お帰りなさい、ミリィ。同窓会は楽しかった?」
「ただいまキャナル、ついでにケイン。楽しかったわよぉ、みんなとは卒業以来の再会だったし、積もる話もありすぎて一晩中語り明かしてたぐらいだし」
「それはよかったわね」
笑顔で話すミリィに、キャナルも笑顔で答える。
「で? そこの黒マントさんは何をこそこそと自分のシートに逃げてるのかな?」
いつの間にか破片の向こう側にあるメインシートに向かって、ミリィは笑いかけた。
「……別にこそこそしてないぞっ」
そう言って立ち上がったケインだが、心なしか視線がさまよっていたりするのは隠せない。
「わざとじゃないんでしょ? 手がぶつかった拍子に落としちゃっただけでしょ?」
「そういうことだ、悪かった」
フゥ、と息を吐き出して、ミリィは散らばった破片に目をやった。

「偶然とはいえ、とてもきれいね。まるで天の川みたい」
「どういうことです?」
「ほら、小さなガラス破片が小さい星で、その中に金平糖がちらばって、大きい星をあらわしてるじゃない。地上から見た天の川ってちょうどこんな感じでしょ?」
「なるほど、そう言われてみれば……」
少しの間、偶然に出来た星の川に見惚れる3人。

「あ、そうだ」
ポン、と手を打ったミリィ。
「ケーキを買ってきたの。おいしい紅茶を入れるわね」
「それはうれしいですね。どうせなら、取っておきのアールグレイでロイヤルミルクティーにしません?」
「いいわね、そうしましょーか」
女二人が談笑して部屋から出かけて、ケインもそれを追うように破片を踏み越えようとして。
「ケインは来ちゃだめ」
ビシッ、と指をさされてしまい、そこから動けなくなった。
「何で俺はそっちへ行っちゃいけないんだ? まさか、俺だけのけ者にするのか?」
「別に邪魔にしようって言うんじゃないけど」
「じゃあどうしてなんだよ?」

「だって、天の川は愛する2人を分けているんだもの。だから、可愛い織姫に会いたかったら、天の川をきれいに掃除してから来てくださいな、黒いマントの彦星さん?」

『ね?』と軽くウインクするミリィに、がっくりうなだれるケイン。そして思わず吹き出すキャナル。
「マスター、頑張ってくださいね。箒とちりとりは持ってきてあげますから」
「……へーい」
笑いながら出ていく姿を見ながら、ケインはとりあえず、大きなかけらを集めることから始めるしかなかった。


******

<勇者王ガオガイガー>
■いたずらなkiss■


「この丘は変わらないね」
「ああ。こうやって寝転がっていると、高校時代に戻ったみたいだ」
街を見下ろす丘。大きな樹の下は昔からの指定席だった。
「ガオガイガーや護くんやGGGのみんなが必死になって守った街だもの。いつまでも、おじいちゃんとおばあちゃんになっても、一緒にここからの景色を見ていられたらいいね」
海からの照り返しにわずかに目を細めつつ、命は隣の男に声をかけた。しかし、彼からの返答はない。
「凱?」
彼女は凱の顔を見やる。と、彼のまぶたはきっちりと下ろされ、胸が緩やかな規則正しい動きを見せていた。
「もぅ!たまに2人で出かけられたって思ったのに、いきなりこれなんだから」
プッと膨れる命だが『仕方ないか』と顔を緩めた。
「起きるかな? 起きないでね?」
寝ている彼の一挙一動に注意しながら、彼女は身をかがめた。

「凱、起きて。もう夕方だよ」
「ん、俺寝てた?」
揺り起こされて、凱は目覚める。
「もうしっかりと。横になったと思ったらあっという間に寝ちゃって。それからぜんぜん起きる気配なかったんだよ」
『お目覚めのkiss』と言いながら、命は凱の唇に軽く口付けた。
「ごめんな。せっかく久しぶりに二人っきりになれたって言うのに」
「ううん。凱の寝顔見てるだけで、私はとても幸せだったんだよ」
にっこり笑う命の体を引き寄せた凱は、その体をぎゅっと抱きしめる。
「これも幸せだよな」
「うん」
しばらくそうしていただろうか。
一羽のカラスが焦らせるように、高く哭いた。
「本当にもう帰らなきゃ。交代の時間に間に合わなくなっちゃう」
「名残惜しいけど、そうするか」







そして。
「遅くなりました」
と凱がメインオーダールームに入ると同時に。
周りからは一斉に笑い声が上がった。
「な、なんだ?」
なぜ笑われているのかわからない凱は、他のみんなを何度も見渡す。
「ガイ、これヲ見てくださいデス」
必死になって言葉を紡ぎだし、スワンは彼の前に手鏡を突き出した。

「あ”〜〜〜〜〜〜っ!!」

一向に起きない凱の頭に、命はクリアヘアバンドを装着して、自分と同じうさ耳を作ってしまっていたのである。
おまけに、右頬には口紅でキスマークまで残して。

「……なんで気がつかなかったんだ?」
起こされた時、命の頭からうさ耳が無くなっていたことを、凱は今更ながらに思い出すのであった。


******



カンシャのキモチ
『星海研究所』のほしみサマより頂きました。
何と、三本立て!!
ロスユニとガガガですよー!!
どうやらミリィはケインよりもキャナルが好きのようです(笑)。
『ついで』扱いですよ。
ははははは。ウチのミリィもキャナルが大好きです。
ガイミコは最近、何処のサイトでも見られなくなったから、本当に嬉しいのですよ!
バカップルぶりが楽しい。
それに乗ってくれるGGGの皆さんも楽しい。
せっつく役はスワンか火麻さんですよね!
おそらくこの後、炎竜たちにも冷やかされたに違いない。
本当にありがとうございましたーvv

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