一枚の葉っぱ |
「……こんなに風が吹き荒れるのって、久しぶりじゃないかしら」 ガタガタ揺れ続ける窓の外を見ながら、キャナルが呟いた。 「久しぶり? 初めてじゃないの?」 「俺も記憶してないんだけどな」 ケイン、ミリィ、キャナルの三人は時間的には少し早めの夕食を済ませ、居間でくつろいでいた。 が、日暮れ前から吹き始めた風の勢いは一向に納まる気配がなく、冒頭のキャナルの言葉となったのである。 「そりゃケインだって覚えてないでしょうね。こんなになるのは本当に久しぶりだもの」 『そういえば』と、キャナルは何かを思い出したようにクスクス笑い始めた。 「どしたの?」 突然笑い始めた彼女を、少し眉を潜めて見るミリィ。 「こんな風がきつい夜の、昔々のことを思い出したの。アリシアから聞いたおまじないと一緒に、ちびケインの笑い話をね」 「えっ、それ聞きたいっ!」 語尾にハートマークがつきそうなミリィに、ケインは一瞬にして顔を青ざめさせた。 「話すなよキャナル」 「えー、どうしてですかぁ?」 「お前が覚えてるってことは何かしらの印象が強かったせいだろーが。俺が覚えてないんだから、むちゃくちゃ恥ずかしい話だったら困る」 「いいじゃない、ちっちゃい頃の失敗談なんて笑って済ませばいいことなんだから。あたしだってケインの話は気になるし、それにアリシアさんのおまじないってのも気になるし」 隣に腰かけている彼の肩を軽く叩きつつ、ミリィはそう言った。 そんな彼女の顔をちらりと見たケイン。 「俺もミリィの小さい時の話が気になるから、また今度じっくりと聞かせてもらえるなら……」 「絶対やだ」 「きっぱりすっぱり、速効で答えましたね……」 苦笑するキャナルの言葉に、『だってほら、あたしは秘密の多い女だから』とにっこりするミリィ。 「そんなことより、アリシアさんのおまじない教えてほしいなっ」 「さりげなく話題転換するんじゃねぇっ!」 「んきゃーっ、ろーぷろーぷ!!」 キャナルの方に身を乗り出したミリィの腕を引き戻して、ケインは彼女の腰を抱きしめる。当然の如く、ミリィはじたばた暴れる。が。 「プロレスは後で2人で存分にやってくださいね」 蹴り上げられたテーブルを押さえつつ言ったキャナルの笑顔に、部屋の温度は急激に下降した。 「こんな風の強い夜だったわ。あのときもやっぱり吹き荒れる風が窓を叩きつけるせいで、先に寝ていたはずのケインも起きてきたの」 懐かしそうに虚空を見上げ言うキャナルの言葉に思わず引き出したミリィを、ケインは横目でにらみつけた。 「ガタガタ揺れる窓の音や、時折聞こえる風の吹き鳴らす轟音。ケインはその音が怖くて眠れないって駄々をこねて、なかなか自分のベッドに戻ろうとしなかったのよ」 「へぇ〜ケインにも苦手なものってあったんだぁ」 「ガキの頃の話だろっ!」 クスクス笑いを噛み堪えているミリィの額に、ケインはデコピンを食らわせる。 「も〜っ、そんなことするんならキライになるんだから」 「やってみれば?ミリィが俺をキライになれるわけないのはわかってるんだから、無駄な努力で終わるのが落ちだと思うけど?」 額を押さえてプクッとふくれるミリィに、勝ち誇ったように言うケイン。その言葉に耳まで真っ赤になった彼女をみながら、ケインは満足げに笑った。 「それで話の続き聞くの、聞かないの?」 はたと我に帰ったケインとミリィ、双方の視線の先にはキャナルが呆れ返った視線を向けつつ頬杖をついていたりする。2人はあわてて座りなおした。 「じゃあさっきの続きに戻るわ。……眠れない理由はアリシアも私もよくわかっていたの。でも、もう子供が起きているには遅い時間。そんなときにアリシアはおまじないをケインに教えたの」 キャナルはそう言って、外を指さした。指先につられて見ると、窓から漏れる明かりに照らされている広葉樹の木が1本。 アリシアがE−17に定住したときに植えられたそれは、回りの樹木に比べてまだまだ細い幹。だが、それでも枝を大きく広げて大地に根づいている。 「これだけの激しい風の中、あの木の枝の葉は落ちないでしょ」 「……ほんとだ」 確かに彼女の言うとおり、吹きすさぶ風は他の大木の葉は容赦なく奪っていくのに、その木は梢を揺らすだけに留まっている。自然のもたらす不思議な光景に、ケインもミリィもしばし言葉を忘れた。 「アリシアはね『あの木の1枚の葉をじっと見ていたら、1つだけ願い事をが叶うから』ってケインに教えたのよ。その変わり目をそらしちゃだめってつけ足して」 「へぇ……何だかかわいらしいおまじないね」 「ということで、あなたたちも試してみる?」 「それもいいかもな」 キャナルの提案にうなずくケイン。 「それじゃ、それぞれ決めた1枚の葉っぱをじっと見つめてね。決して目をそらしちゃだめよ、そらしたらそこでおまじないは終了だから」 準備が出来たと告げた2人に、キャナルの短い合図がとんだ。 強い風、弱い風。速い風、遅い風。 絶え間なく揺れる葉は休む事なく、左右に揺れ続ける。 その動きは速度こそ違えど……。 『おっきろ、おっきろ、あっさがきた〜』 テーブルの上に置かれた目覚し時計が、キャナルボイスで起床時間を告げる。 女性とおぼしき手が伸び、テーブルの上を探るように動くが後一歩というところで目的のものには届かない。 そして少し体を動かしたとき。 ゴガッッ!! 大きな音とともに、くるまっていたシーツごと床に落ちた。 「いった〜〜いっ!」 「痛いのはこっち……って俺たち、どうしてこんなところにいるんだ?」 着のみ着のままで2人が寝ていたのはリビングのソファだったらしい。 「そんなのあたしが知るわけないじゃない。昨日の夜はアリシアさんのおまじないしててその後の記憶が途切れてるんだから」 「胸はって言うことじゃねーだろ……」 「それじゃケインはどうなのよ?」 「もちろん、知るわけねーじゃねーか」 ミリィの両肩からは思わず力が抜けた。 「それについては、私が説明するわ」 モーニングコーヒーの満たされたマグカップを乗せたトレイを持って現れたのはキャナル。 「あなたたち、木の葉見てたら寝ちゃったのよ。それも2人同時に」 キャナルは必死で笑いを噛みこらえつつ言う。 「揺れる葉っぱの動きが振り子のような役割をしてたのよ」 「……ってことは、あたしたちは催眠術にかかったあと、そのまま寝ちゃったってわけ?」 「そゆこと。前はケインが子供のときだからかかって当然と思ってたんだけど、大人でもかかるものなのね」 「それじゃあ、願い事が叶うってばーちゃんのおまじないは?」 「それはちゃんと叶ってるわよ。嵐に怖がらないで眠れるっていう願いがね」 とうとうこらえ切れず笑い始めたキャナルに、ケインとミリィの開いた口はふさがらない。 「「そんなのってありぃぃぃぃぃぃ?!」」 前日の風の嵐が嘘のように静まった惑星に、異口同音の声が響き渡った。 |
| 御礼。 |
| ほしみゆーき様から頂きました!!! ケイミリ小説―――ッッ!!(落ち着け) ロストノベルリングに参加したときに、リクエストしても良いということだったので、 わがまま言って、書いてもらっちゃいましたvv 3人とも出て来ていい感じっ♪ オチもばっちり☆(笑) おまじないもアリシアらしくて、何だか口元ゆるんじゃいます。 所々、イケナイこととか教えてそうなばーちゃんな気がするのは気のせいかしら? ほしみさま、有難う御座いましたっっ! |
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