Crown Baby |
金色の産毛がふわふわと丸く風に揺れる。 あたたかな光がきらきらと降り注ぐ。 その陽射しは、まるでスポットライトのように 1つの古びた小さなベッドを照らし出していた。 「くふぅ〜・・・す〜」 「ふふ。よく眠ってる」 寝返りを打てば、可愛らしい音がしそうだ。 湿度と室温に気を配られた室内の窓からは、 さんさんと暖かな太陽の光が降り注いでいる。 くすりと 見合わせていた瞳が笑った。 「ホント、天使みたいね」 「ええ。羽根があったら無邪気に 空へ飛んでいってしまいそうだわ」 小さなメイプルの葉に似た手の平。 ぷくぷくの、淡く桃色に色づいた頬。 落ちた瞼を縁取るまつげは存外長くて、 ふるふると太陽の光を受け止め 打ち返してく。 もしも名前を与えるとしたら、それは『平穏』。 少なくとも、この空間は小さな天使を守っていた。 「いい子ね・・・」 つん とつついてみると、それに反応したのか、 むぐむぐと淡いピンク色をした口元が動いた。 それはすぐに緩み、すぴ−と寝息が聞こえる。 「ほんと、2人ともよく寝てる」 そして、その隣には 同じように金色の光を纏った小さな天使。 ───まるで、優しい時間を倍にするために 訪れたように そこには赤ん坊がもう一人いた。 同じベビーベッドに寝転んでいる体格からして、 歳は同じくらいだ。違うとすれば、産着の色と 装飾から見て 性別くらいだろうか。 きらきらと柔らかな二つの金色の髪が 陽射しを受けて、お揃いを喜んでいる。 この小さな頭に王冠を乗せたら まるで童話の国の王様とお姫様。 穢れのない白のレ−スがついた産着の赤ん坊が ころんと寝返りを打った。その隣ですぴすぴと 安らかな安眠を貪るシンプルな産着の赤ん坊に、 その小さな手がこつんと触れる。 「あら」 母親の声に反応したのか、指先がきゅっと丸まった。 「ふふ。こうしてると、この子たち 手を繋いでるみたい。ねぇ、トリシャ」 狭いベビーベッドに赤ん坊が2人も眠っているのだ。 隣り合う天使が重ねる小さな手に、思わず笑みが零れる。 「エドワードったら、ウィンリィちゃんが 一緒だと寝付きが良いのに 家じゃなかなか 素直に寝てくれなくて困ってるのよ」 「ウィンリィもぐずるわよ。昼間はこうやって すんなり寝てくれるのに・・・」 ふぅ と、若い母親が二人してため息をつくが 親の心子知らず。子供たちはすやすやと眠っている。 「ねぇトリシャ、このまま夜も エドワードくん借りちゃって良い?」 「あら、私は夜泣きから解放されて助かるけど・・・ でも良いの?きっと、ユーリが怒るわよ?」 ウィンリィの父親であり医師であるユーリは、医師として 有能で誰にも分け隔てなく優しい 優れた人格者だ。 ただし、娘が関わるとそれが音を立てて崩れてしまう。 早い話が(かなりな)親バカなのである。 「あの人ったら、エドワードくんにこの子を取られた 気分になるみたいなのよ。お嫁に出したわけじゃなし、 だいたいが 2人ともまだ赤ちゃんなのに」 「子供の成長なんて、あっと言う間よ。そのうち ウィンリィちゃんだって家にボ−イフレンドとか 恋人を連れてくるようになるんだから」 情けない事に、その惨状は容易に想像がついてしまう。 彼女がどこの誰とも知らない青年を連れてきて、 夫が『そうか、娘をよろしくな』と言えるかどうか。 ・・・・絶対に無理だ。 サラが、ふむ と手を顎に宛てた。 「そうよねぇ・・・紹介したいなんて言われたら、 あの人気絶しちゃいそう。どうせ誰かに取られるもの、 だったら トリシャの所に貰ってもらったら安心よね」 「あら、エドワード?うちはいつでも大歓迎だけど」 ウィンリィならば、嫁姑間の問題もなさそうだ。 くるりと一度だけ宥めるように腹を撫でると、 トリシャが悪戯気に片目をつむってみせた。 「お腹の子が男の子なら、年下になるけど。 ウィンリィちゃんの好きな方をあげるわよ?」 「え!?」 トリシャの言葉に、サラの瞳が輝く。 ああ、やはり と、確信を持って。 「そう、病院に行ったのね。おめでとう! やっぱりそうじゃないかと思ってたのよ」 数日前から体調不良を訴えていたエドワードの母 トリシャだが、それが彼を妊娠した時に似ていたので もしや・・・と 2人は考えていたのだ。 医師に告げられた内容をそのまま語ると、 サラが 楽しみね、と柔らかく微笑む。 それを受けて頷こうとした時───・・・ 「んん〜・・・」 ベッドからちょろっと見えるのは、 伸びをしているらしい小さな手。 「・・・あ。ウィンリィちゃん起きるかしら」 「まだ大丈夫じゃ・・・」 ごす! 「「あ」」 そのまま寝返りをうったウィンリィの拳が、 綺麗にエドワードの顔面に決まっていた。 それはもう えぐる様な右ストレ−トである。 ひく と、頬をひきつらせたトリシャとサラの視界に、 驚いたエドワードが目を覚ましてしまったのが映った。 うるうると、瞳に溢れ始めた雫が陽光に反射し その金色の海の水面をキラキラとゆらめかせ─── 「エ、エドワード!大丈夫?」 「・・・ふぇ。あぁあ〜!!」 慌ててサラが抱き上げた時には、エドワードは 火が点いたようにわんわん泣き出してしまった。 部屋の壁をぶち破く勢いの声だが、ウィンリィは 我関せずとすやすやと気持ち良さそうに熟睡している。 将来大物になるかも・・・と、トリシャが肩を震わせた。 「ああぁ〜っ」 「ト、トリシャ!笑ってる場合じゃ・・・ よしよし、ごめんね〜エドワード」 娘の所業に焦るサラが、痛かったね〜と 赤くなったエドワードの頬を撫でて宥める。 耳にハッキリと届いた音から考えると、その勢いは 相当だったろう。なんせ、遠慮も何もないのだから。 「ふぇ、ふぇ・・・」 「ほらほら、エドワードったら・・・ あんまり泣くと女の子にモテないわよ?」 ぽんぽん と小さな背を一定のリズムが刻む。 「えっく、えっく・・・」 ゆっくりとエドワードが落ち着くのを見計らい トリシャが、仕方ない子ね と苦笑した。 「ホント泣き虫さん。誰に似たのかしら」 「今のうちだけよ。男の子は女の子よりも早く 我慢する時期が来るんだもの。ね−?エドワード」 涙で濡れた頬を、綺麗に整っ指先がつん とつつく。 「それに大丈夫!もしもの時は、ウィンリィに 責任ちゃ−んと取らせて お婿さんに貰うからっ」 「それは頼もしいわね」 まさかこのあと数年後に、彼のトラウマが 彼女自身により形成されるとは 露とも知らず。 ただ、今は 大気のカケラが陽射しに照らされて きらきらと静かに落ちてゆくのを見ていた。 ───そんなある日の、昼下がりのお話。 終わり。 |
カンシャのキモチ。 |
| いつもお世話になっている飛鳥井綾子さまからまたまた頂きました。 半コラボ作品!(笑) チャットでのネタが元。 会話ってネタの宝庫だよね!みたいな。 ちっちゃい子が二人くらいくっついて眠ってるのって超絶可愛いんですよね(地味に力説)。 こんな穏やかな日もあったんだよなぁと、ちょっとしんみりしてみたり。 胸キュンエドウィンが拝みたい方は『箱庭のお茶会』さまにれっつらごー! ありがとうございました!! |
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