梔子の花に想いを託した。







くちなし








爆音が何処かしらから響く。
至る所紅く燃え上がり、屋敷と呼べるもの全てを喰らおうとしていた。
炎とは悪しきを呑み込む氣の流れ。
白銀の諸刃の刃も紅に染まる。
また、何処かで何かが崩れ落ちる音が響いた。
「此処も直に崩れ落ちる」
対峙する青年よりも、幾許か年嵩の男が口を開く。
更に青年の眼光が鋭くなった。
片腕は既に無く、炎よりも濃い滂沱の血が流れ落ちて行く。
被っていたはずの兜も炎の中であろう。
髪は炎に炙られ千々に乱れている。
呼吸は荒い。
肩で息をするのがやっとなのだろう。
其の出血で立っていられるのが不思議なくらいだ。
簾子の床は既に燻り、煤で黒ずんでいる。
ぎしり、と足元が鳴く。
「言われずとも承知している」
ならば、と男は口を開きかけるが、彼の眼光に阻まれた。
ヒトとは時に妖かしよりも空恐ろしい。
否、根源の違うものを比べることが愚かしいのか。
男は日ノ本では見られぬ白銀の髷を長く揺らめかせ、
異様な鎧を身に纏っていた。
耳は尖り、顔には見慣れぬ文様が描かれている。
琥珀色の鋭い瞳は、月の光によく似ていた。
腰には三振りの太刀を佩き、其の内の一振りを手にしている。
傍目にも分かる程の禍々しさ。
其のような剣を扱う者が、ヒトであろうはずもない。
彼の男は間違うこと無く妖かし。
刹那武丸は片腕となった己が手を目の端で睨み、
刀の柄を握り締める力を一層強めた。
ぎり、と衣擦れの音がする。
「退け、と言うても聞かぬのであろうな」
「敵を前にして背を見せろと?其のような真似をするくらいならば、いっそ自害しておるわ!」
男は微かに目を細め、静かに閉じた。
背には無数の矢が刺さったままに成っている。
先の闘いにて負傷した身体から伸びた腕は、どうやら上手く動きそうに無い。
止まらぬ血が流れているのは百も承知だ。
ならば、と男はもう一度呟く。
「!」
武丸は刃を構え、男の刃を受け止める。
鈍く、重たい感触が掌に伝わる。
彼の刀が折れなかったのは偶然にも幸いだった。
妖かしの剣は、武丸を喰らおうとするが如く、
どす黒い瘴気を纏わり付かせて炎と同じに揺らめく。
身を捩り、受け止めていた刃を押し返すと、後ろに飛び退いた。
だが男は最初から気付いていたのか、追いかけるように床を蹴る。
飛び退いたばかりで体制の整っていなかった武丸は、今度こそ肩から袈裟切りに刃を受けた。
崩れかける身体。
寸での所で踏み留まり、男の懐へと飛び込む。
逆袈裟に振り上げた刀は男の前髪を掠めただけで、致命傷どころか傷一つ付けられない。
右から閃く一線を柄で跳ね、叩き落す。
剣先が逸れた。
見逃すこと無く、武丸はそのまま男の肩に刀を突き立て、横に薙ぎ払った。
抉れ、鮮血が飛び散る。
男は傷口を押さえようともせずに、眼前の武丸を見据えた。
轟、と背後で天井が崩れ落ちる。
熱気が比べ物にならないほどに満ち満ちて来た。
呼吸もし辛い。
四方は炎に囲まれ、逃げることも敵わない。
妖かしには添うでも無かったのかもしれない。
男は逃げようとはしなかった。
愚かだと言えば、添うなのかもしれない。
先程の武丸と同じく、背を見せるのが躊躇われたのか。
否。
彼は愛しきヒトを探す為、いともあっさりと背を向けた。
信念の為ならば、己が身の誇りなど捨てられるのだ、簡単に。
武丸は咆哮し、一直線に男へと向かう。
妖かしで在るのに。
妖かしで在る癖に。
妖かしでしか無い癖に。







―――何故、彼の御方の御心を容易く奪ったと言うのだ







疾風の如くに、愛しきヒトの心は攫われた。
其処に在る倖せなど、認めたくは無かった。






片腕で男へと斬りかかる。
刃がぶつかり合い、弾かれ、再び交わる。
微かに刃が欠けた。
風圧と剣圧が男へと襲いかかるも、妖刀で一筋に薙ぎ払う。
払い切れなかった圧が頬を、腕を、足を掠め血を滲ませた。
髪も幾筋か零れ落ちる。
息を荒くしながら、武丸は柄を握り直した。
血で汚れた柄を握る手は、ぎしりと不自然で違和感のある感触を齎す。
乾きかけた血の上から、汗と新たな鮮血が流れた。
脛当ての付いた足を踏みしめると、床がみしりと音を立てた。
刹那、武丸は踏み出す。


―――討ち取った…!


ずぶり、と確かに肉を断つ感触。
男は武丸の剣を避けもせずに、己が身にて受け止めた。
真っ直ぐに心の臓を貫いているであろうに、毅然とした態度は其れを微塵も感じさせない。
更に深く男の懐へと刃を押しやる。
肉を貫き、骨を断つ感触が篭手越しに分かる。
生温い血も、じわりと染み入る。
だが、先程の考えを払拭するしか無かった。
如何足掻いても、討ち取ったとは思えない。
勝利の感慨に耽ることは出来ない。
其の理由を、武丸は織った。
「が、は…っ」
呼吸が出来ない。
口の中に広がる鉄の味は、どろりと溢れて来る。
唇から顎を滴り、黒を帯びた紅い血がばたばたと落ちた。
男は待っていたのだ、彼が己を貫くのを。
其の瞬間に出来る僅かな隙を。
手負いであろうが、彼の男は妖かし。
武丸を殺めることなど容易かったであろうに、ヒトの流儀にて刀を抜いた。
項から喉笛まで貫かれた頭は、辛うじて現状を把握するに至っていたが、
直ぐに思考すら止まるであろう。
妖かしの刀が不服そうに燻っている。
「ぉ、の…れぇ…っっ」
貫かれた喉から掠れた息が漏れる。
彼の首から刀を抜くと、轟、と巨躯は人形のように倒れた。
武丸が握っていた刀も共に、彼の胸から抜け落ちる。
床に広がる鮮血。
目は血走ったまま、刀からは手を外さぬままに武丸は絶命した。
彼の身に纏わり付く、どす黒い瘴気が漂う。
ひと睨みした所で其れらが霧散するはずも無く、
床を這うようにして男の足元まで伸びて来る。
死の臭い。
彼の男にも漂う其れに惹き寄せられるかの如く、じわじわと広がっていく瘴気。
膝が折れ、身体が傾いだ。
辛うじて片膝を立て、刀を支えに使うも立ち上がる余裕は無い。
逃げることなど、元より考えていなかったのかもしれない。
崩れ落ちていく館の柱。
降りかかる火の粉に刺されるような熱さはもう感じない。
目の前は霞み、橙に近い紅が広がり、映るばかり。
「御館様!」
耳を傾け、感覚だけで瞳を動かす。
もう、見えるはずも無い。
「…冥加、か」
焦点の合わない瞳に、彼の目が役に立っていないことを悟る。
小さな形をした従者は悲痛に顔を顰めた。
「十六夜は」
「姫の従者が屋敷へと」
「添う、か」
安心したように微笑む。
ひとつ息を吐き、目を閉じた。
其の間にも館は燃え落ちて行く。
忙しなく辺りを見回していた冥加は、倒れた武丸に気が付いた。


―――此の男さえ居なければ


きつく眉根を寄せ、今はもう息の無い男を睨んだ。
「冥加」
其れに気付いたのか、其れとも全く別の意図であったのか、男は冥加を呼ぶ。
「最期の、命だ」
開かれた口元から滴る鮮血。
まるで最初から決まっていたかのように、紡がれる言の葉。
果たして其れは添うだったのかもしれない。
冥加は膝を付き、頭を垂れる。
「…心得ております」
彼が何を言わんとしているか、即座に理解する。
何時か。
今ではない何時か。
一体幾度、彼は繰り返しただろう。
数えるのも億劫になる程の、歳月の中で。


―――私が死した時には、あの世と此の世の狭間に墓を


強き妖かしの体躯は死した後にも狙われる。


―――此の黒真珠は二度、通路を開く


彼が、彼以外の誰のものにも成らない証。


―――一度目は私が通り、二度目は





「心得て、おります」





―――犬夜叉と共に墓参りにでも来ると良い





冥加はもう一度繰り返した。
虚ろになった瞳は使い物にならない。
目を開くのも意味を成さない。
其れでも開く。
「逝くのか、大将」
ゆらり、ともうひとつ影が浮かぶのに気付く。
己が背丈程も在るだろう槌を肩に担ぎ、皺枯れた手で鬚を撫で付けた。
「刀々斎」
「逝くのか、ひとりで」
「逝く」
「添うか」
死に逝く者であろうに、凛とした応えに刀々斎は目を細める。
足の親指で、冥加の背を軽く蹴り付けた。
だが、と男は呟く。
「ひとりでは無い」
燻る炎が其処彼処から吼えている。
もう半刻もしない内に、全て黒い煤の固まりと成り燃え落ちるだろう。
「信頼する家臣が居た。愛しき者が居た。朋が在った」
輪廻転生があるのは、思い残した何かがあるから。
其れを求めるかの如く、生きとし生けるものは転生を繰り返す。
昇華していくのは、思いを遂げた魂。




―――思い残すことは多々在る、だが




じわりと広がるあたたかいものを否定はしない。
「私の心は、ひとりでは無い」
愛した。
愛された。
想い、慈しんだ。
後悔は無い。
後悔など織らない。
ひとつひとつ減っていく、成さねばならぬこと。
「御館様」
ぼたぼたと紅い雫が散る。
「後は、頼んだぞ」
懐を探り、黒い真珠を指先に摘む。
鈍い輝きを放つ黒真珠は、紅く照らされ其れでも煌く。
「厄介ごとばかり押し付けおってからに、御前さんという奴は」
刀々斎は呆れた様子で深々と溜息を吐く。
傅く男を見下ろせば、出会った頃の姿が重なった。
「昔からちっとも変わりゃしねぇ」
「すまない」
彼が苦笑するのが分かる。
ゆっくりと然し毅然と、口を開く。
「冥加」
「十六夜様と犬夜叉様は御任せを」
腰から鞘ごと刀を抜く。
二振りの刀を刀々斎へと差し出した。
「刀々斎」
「儂が打った刀じゃからの。きっちり面倒見てやるさ」
空の鞘へ、蒼雲牙を納める。
渦巻く妖気が形を顰めた。
「鞘」
「やってはみるが、期待せんで下され」
立てた片膝へと額を押し付け、彼は大きく息を吐き出した。
乾いた笑いが耳を掠める。
「…情けない」
覚悟は決めていたはずなのに。
疾うに、選んでいたはずなのに。
何故。
如何して。
問うても返る答えは無い。



「愛しき者達の顔ばかり浮かんで来る」



当然であった。
然して難くも無い答え。
其れは何時でも、今も、彼の裡に在る。
不意に、白く匂やかな花を思い出した。
「…梔子は」
ぽつり、という形容がよく似合う呟き。
若しかすれば、其れは呟きでは無かったのかもしれない。
「咲く、だろうか」
「咲く」
きっぱりと告げる刀々斎に、男は瞳だけを何とか動かした。
添うしても、見えるものは無かったが。



「此の世界は廻り続ける。例え、御前さんが死んでもな」



すぅ、と一筋彼の頬を流れたものなど見なかった。
最期の最期に流したものなど、何も。
冥加には、彼の想い至ることを織る由も無いのだから。
けれど其れが、哀しみ故に流れたものでは無いのは知れた。



「ならば、良い」



其れで良いのだと、男は微笑った。



男の身体が黒真珠へと吸い込まれ、静寂が訪れるには時間がかかった。
屋根が玩具のように崩れ落ちていく様を眺めながら、
主はもう居ないのだと懸命に、冥加は己へと言い聞かせた。
冥加の手にした黒真珠は彼を吸い込むと程無く入り口を閉じた。
炎が顔を炙る。
ちりちりとした痛みすら、如何でも良く思えた。
心の洞は消えない。
「御やか、た、さ…」
声にしようとしたが、言の葉には成らず音だけが零れた。
刀々斎は刀を一振り空に掲げ、行け、と呟く。
「御前の主の場所くらい分かるじゃろう」
天生牙と呼ばれる刀は、頷くように淡く揺らめくと空へと浮かび、
迷うこと無く山の向こうへ消えて行った。
もう一振りの刀は、彼が黒真珠へと吸い込まれた時に一緒に放り込んだ。
今は未だ時では無い、だから彼の傍へと呪をかけた。
何時か廻り来る主の元へと渡るまで。
其れが刀々斎の果たそうとするもの。
ひとつ、ふたつと空からの雫が地面を黒く濡らしていく。
一斉にして降り出した雨は、辺り一面を霧で覆い尽くした。
未だ燻り続ける炎があちら此方でちらちらと姿を見せるも、
もう暫くすればすっかり消えてしまうだろう。
至る処から煙が立ち昇る。
炭と化した館はただの黒い塊に成り、雨に濡れている。
滴っていく雨の雫はただただ彼らを濡らしていく。
ただただ、熱を奪っていく。
目頭が熱い。
頬を伝うのは雨か、其れとも。
「もう泣くな、冥加」
使い手亡き妖刀を前に、刀々斎は館の柱であっただろうものにどかりと腰を下ろす。
「泣くな」
静かに目を瞑る彼は、何を思っていたのか。
濡れた衣がずん、と重たい。
「未だ後始末が残っとる」
鞘、と刀々斎は呼びかける。
姿を現した老人の幻影が渋々ながら口を開いた。
「五百年程度であれば、抑えることが出来るやもしれぬ」
ただ、確約は出来ない。
其れ程に禍々しい妖気。
刀々斎も冥加も、難しい顔で頷くしか無かった。
骨喰いの井戸と呼ばれるものに蒼雲牙を投げ入れようと言い出したのは誰だったか。
廻り行く縁の先は遠く、未だ知れぬ。
「冥加、其れは?」
ふと、冥加が手にしている幾筋もの白い糸が目に入る。
「御館様の御遺髪じゃよ」
其んなものを如何すると問えば、彼の姫御前に渡すのだと答えた。
気休めにしか成らないのは分かっている。
若しかしたら、余計に哀しませるだけやもしれぬ。
けれども、彼が居た証を、彼が夢では無かったのだという証を渡したかった。
自分勝手なのは理解している。
彼女は其のようなことを望んでいないかもしれないのだから。




―――随分と重たかったでしょう?



少女とも女ともつかぬ容貌で、十六夜は微笑った。
今にも泣き出しそうな顔をして、微笑った。
「十六夜様…」
「私ならもう平気です。大丈夫、ですから」
冥加は顔を上げられずに、自分の膝を見つめるしかなかった。
添うだわ、と十六夜は穏やかに口を開く。
彼女の後ろに置かれた畳では、
彼の背の君と同じ白銀の髪をした赤子がすやすやと眠っていた。
産着の白は魔を寄せ付けない呪の一種。
「此れを犬夜叉の背守にしましょう。あのヒトが護ってくれるよう」
小さく包まれた遺髪をそっと指先で撫で付ける。
つい今し方幼子の瞳に吸い込まれるようにして消えた黒真珠を目にした。
其の中に彼の元へと繋がる道が在るのだと。
何時か、幼子が手にする刀が其処に在るのだと。
添う、と十六夜は瞳を揺らしたが、其れ以上何も追求はしなかった。
逢いたい、とも、何故、とも言わなかった。
恨み言を覚悟していた冥加は、其の時改めて彼女の強さを思い織った。
其れが余計に、辛い。
「行って、冥加」
年老いた従者は顔を上げた。
堪らず漏れたのは謝罪の言。
驚いたように、十六夜は首を傾げた。
「何故、謝るの?」
何故と問われ、目を瞑ったまま膝に置いた手を握る。
襲う後悔。
自責の念。
忘れていたかの如く、其れらが問答無用に押し寄せた。
「あの時、儂が御館様を御止め申し上げていれば、或いは」
「冥加」
凛とした声が遮る。
ふわり、と春の風のようにして十六夜は微笑んだ。
長く艶やかな髪が、背へと流れる。
居住まいを正し、彼女は軽く目を伏せた。
「駄目よ。其のようなことを言っては駄目」
咎めるでも無く、首を振る。
「誰の所為でも無い。あれはあのヒトの決めたこと」
緋袴がしゅるりと鳴る。
彼女は肩越しに犬夜叉を振り返った。
何を思い出しているのだろう。
「…あのヒトは生きろと言った。己は死ぬつもりなのに、勝手なヒトね。殿方とは添う在るものなのかしら」
浮かべる微笑みは、先程よりも更に泣き出しそうで。
懸命に微笑おうとしている十六夜を直視することは叶わない。
裂かれる痛みを彼女は背負おうとしている。
否、身を裂かれる方が楽なのかもしれない。
彼女が其れを口にすることは決して無いけれど。



「本当に、勝手ね」



俯いてしまった十六夜の表情は織れない。
雪明りが御簾から差し込んでくる。
此れ以上、此処には居られない。
此処に居ては、彼女は泣きたくても泣くことも出来ない。
冥加は簡単に挨拶を済ませると、逃げるようにして御簾から飛び出した。
白い雪が冷たく、悴む。
振り向くことはしなかった。
彼女が崩れ落ちたであろうことは容易に想像出来た。
想いを振り切り、冥加は駆ける。
忘れていた涙が溢れ出した。
あんなにも泣いたはずなのに、未だ流れるものが在ったというのか。
自分にほとほと呆れ果てる。
何時までも続く哀しみなど在ろうはずも無い。
悲しみは薄れ、消え行く。
想いも、思い出も全て。



―――其のようなことは、無い



雪の中に埋まり、声を押し殺したのは遥か遠く。
生まれた哀しみが消え行く日などあるはずが無い。
時折、今でも夢に見る。


明々と焼け落ちていく館を。
主が炎に包まれて行く瞬間を。
決して涙を見せようとしなかった姫御前を。


貫くような痛みの薄れる日が如何して来ようか。
忘れることが如何して出来ようか。
冥加はゆっくりと目を開けた。
戦国の世。
絶えず戦は繰り返され、何処其処で某の武将が討ち取られただの、
某の陣が崩されただのと囁かれる。
妖かしは戦場を好み、血を求め、邪心を喰らい、其の行く末を傍観した。
其れが戦乱の世。
ヒトと妖かしと神の入り混じる混沌。
争いの無き世とは、訪れぬものなのか。
主や姫御前のように涙を流すものが無き世とは、叶わぬ夢で在るのか。
思い、口にしようとして噤んだ。
其れは、妖かしの禁忌。
望んではならないもの。
冥加はゆるゆると首を振った。
すっかりと更けた夜に浮かぶ白い月を見上げる。
久方振りに、妖かしとヒトの愛子を懐かしく思う。
明日、夜が明けたら武蔵にでも足を向けてみようかと、冥加は目を閉じ、眠りに落ちた。












あとがき。
漸く書けました、館炎上編。
見事に爺しか出て来ねぇ。
殺生丸に天生牙を渡すくだりは映画無視の方向で(爆)。
刀々斎が特別扱いなんて、気にしない。
十六夜出てくるところは、絵に収納している犬夜叉漫画とリンクしてます。
あっちは十六夜視点。
梔子の花言葉は『倖せを運ぶ』。
犬父の台詞はその辺の意味を自由に汲み取って下さい。


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