紛らわしくも真実得たり





アルフォンスが、居間の前を通りかかった時だった。
2人分の声が扉から漏れてくる。
1人は自分の兄の声で、もう1人は幼馴染の声だった。
「は?」
「だから、ね。その、妊娠したかも…」
混ぜて貰おうとドアノブに伸ばした鎧の腕がぎしりと動きを止める。
「いつ?!」
「最近、何かおかしいなって思って。検査とかまだなんだけど、もしかしたら」
部屋に入ることも出来ず、少年はただただ立ち尽くす。
聞きたくない、けれど、逃げることも出来ない。
アルフォンスは金縛りにあったかの如く、
2人の声が聞こえて来るのに耳を傾けるしかなかった。
「…相手は誰だよ」
「分かんない」
「分からないって何だよ、お前!」
「だって分からないんだもん!」
剣呑な雰囲気を滲ませ、言い争いを始めた2人にアルフォンスは慌てて部屋に飛び込んだ。
「ちょっと待って!」
「アル…?」
微かに涙を目尻に滲ませたウィンリィが振り返る。
機嫌の悪い表情を隠しもせず、エドワードはアルフォンスに向かって怒鳴った。
「アルフォンス、お前は黙ってろ!」
関係ないとばかりに叫ぶ彼に、アルフォンスも負けじと言い返す。
「何で?!僕にだって関係あるでしょ?!」
「そうだよ、エド。アルにだって」
「…悪ィ。そうだよな、アルだって仲良かったもんな」
気を鎮めさせ、エドワードはもう一度ごめん、と謝った。
「…父親が分からないってどういうことなの?」
ややあって、アルフォンスは聞き辛そうに口を開く。
ウィンリィの表情が曇った。
両手を何度も組み直し、所在無さげに視線を泳がせる。
だからね、彼女は口ごもった。
「ほんとに分からないの。気が付いたら、そうなってて。明日、ちゃんとお医者様に診せに行こうと思ってる」
「ばっちゃんは…駄目、だよね」
「うん、ばっちゃんじゃ駄目」
そっか、とアルフォンスは頷くと、それ以上何も言えなくなってしまった。
まさかウィンリィがそこまで思いつめているなんて。
アルフォンスはぐるぐると困惑する頭を押さえ込む。
「ウィンリィがぼけっとしてるからそういうことになるんだろ」
未だ機嫌の悪いエドワードをアルフォンスは窘める。
物には言って良いことと、悪いことがあるはずだ。
「良いの、アル。ほんとのことだもの。私にも責任はあるわ」
「でも、ウィンリィ」
「私がしっかりしてなかったから…」
でもね、とウィンリィは顔を上げる。
「エドは見たくないの?子どもが生まれたら、絶対可愛い」
「相手がブサイクだったらどうすんだよ」
「母親は美人だわ」
「そういう問題じゃねぇだろ!責任取らせろよ!」
「責任なんて大げさよ」
「大げさなんかじゃないよ!」
アルフォンスまでもが声を荒げ、ウィンリィはびっくりして視線を少年に寄越した。
「だって、子どもだよ?命を宿してるんだよ?大げさなんかじゃ、ないよ」
項垂れるアルフォンスを宥めるように、ウィンリィは少年の肩をぽん、と叩く。
そうしていると、まるで本当の姉のようだ。
幼い頃、出かけるれば3人一緒に兄弟とよく間違われたことを思い出す。
「…うん、そうね。ごめんなさい。でも私、覚悟はしてたよ」
「ウィ…」
「いつか、こんな日が来るんじゃないかって」
アルフォンスは言葉を失くす。
いつか?
こんな日が?
何故そんなことを思わなければならないのか。
少年の声を遮り、ウィンリィが口を開く。



「デンだって、もう立派な大人だもの」



だからって、言い返そうとしたアルフォンスは目を点にする。
は?と間抜けな声を漏らした。
「…………………デン?」
「ったくよー。どこの馬の骨とも分からないヤツの子どもなんて厭だぜ、俺は」
「あの、え…?」
「だから、可愛いかもしれないって言ってるでしょー」
ぶつくさと文句を言うエドワードに、ウィンリィは眉根を上げる。
アルフォンスは呆然と黙り込んだ。
「アル?」
「どうした、アル?」
ぶちり、と何かがキレる音がした。
あぁ、魂だけのこの身体にも堪忍袋と言うものがあるのか、
などとどこか他人事のように思った。


「紛らわしいんだよ、2人とも
――――ッッ!!!」


その後、アルフォンスの怒った理由が分からない2人は、
ワケが分からないまま少年の怒りを宥めるのに数時間を要した。
ちなみに、デンはただの便秘だったらしい。





end





あとがき。
下らない馬鹿馬鹿しいものを書きたかったんです・・・。



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