|
|
||
「うわー! すっげー! 激綺麗!!」 悟空は桜を見て目を大きく見開く。 目の前にある桜は樹齢何百年という大きな木だった。 天上にある満月を背に薄紅の花びらは淡く光っている。 「よくこんな場所見つけたな」 隣に来た八戒を見上げてると、八戒はにこっと笑った。 「ジープが見つけたんですよ」 「へえ〜、すげーな」 悟空の視線を感じ、ジープはキューと鳴いた。 「偶然とはいえ、イイ場所見つけたんだから俺達2人で1人占めってのもなんだかなってことでお前ら誘って夜桜見に来たってワケ」 ビールを持って悟浄が悟空の方を向かずに声を掛けた。 「相当な暇人だな」 悟浄の手にあったビールをひったくると三蔵が呆れたような表情を見せる。 悟浄は三蔵の表情を見て楽しそうな口調で、片目を瞑る。 「ま、イイんじゃない」 「これ、どれくらい立ってんだろ?」 「さあな。しかし、見る限りだと、500から600年って感じはするが」 「もう少しするんじゃナイ? 800年くらい」 「どっちにしてももの凄く長生き、ってことですよ」 「そうだな」 「うん」 桜を見上げながらの会話はいつもと同じような、 しかしどこか違うように感じる不思議な感覚をもたらしていた。 しばらくたわいもない、いつもの会話が続いた。 「今年は風が強いですからね。この桜もじきに散ってしまうかもしれませんね」 ひらひら落ちてきた桜の花びらを見て、八戒がポツリと呟いた。 「そうだな。他の桜も散ってきてるからな」 「えっ、だってこないだ咲いたばっかじゃん、なんでそんなに早く散っちまうんだよ?」 八戒と悟浄の会話を耳にした悟空は怪訝な顔を作る。 その表情に反応して、最初に口を開いたのは悟浄だった。 「美人薄命ってヤツ」 「なんだよ、それ」 「綺麗なものはその命が短いってコト」 「どうして、短いんだよ」 悟空は桜の木を見つめた。 どうして、こんなに美しいものがすぐに無くなってしまうのだろう。 どうして、永遠に咲き続けないのだろう。 「あきるからだろ」 「さんぞ…」 三蔵の声を聞いて悟空はそちらの方を見る。 三蔵は悟空がしていたのと同じように桜を見ていた。 月の光が金の光を映えさせ、紫の瞳を優しく輝かせていた。 「永遠にずっと桜が咲いてたら、飽きるに決まってんだろ。ずっと同じものなんぞ見続けてみろ、いくら綺麗だって言っても飽きるに決まってる」 三蔵は悟空の方を向いた。 微笑んでるようにみえるのは、月の光の所為だろうか。 「これでいいんだよ。変わらないもんなんかないから、生きていけるんだ、俺達は」 ざあぁぁぁ…、風が桜の花びらを月に運ぶ。 無意識にこの光景を見れば、夢のような美しさに惑わされる。 薄紅をのせた風は月の光に抱かれ光るから。 「ま、今年はもう散っちまうけど、来年また咲くから、イイじゃん」 悟浄が、花びらを見て呟く。 「三蔵じゃねぇけど、ずっとなんか咲いてれば、桜の綺麗さなんて良くわかんなくなるぜ。すぐに散ってまた来年咲くからいいんじゃん。楽しみがあって」 「楽しみ?」 「来年はどういう風に咲くかって楽しみ」 どこか悟浄らしく思って悟空は笑った。 「桜も人も同じなんですよ」 八戒の翡翠の瞳が悟空の金の瞳を見詰める。 「永遠ではないから美しいんですよ。限りある生命《いのち》の中で、どれだけ生きたか、それが大切だと思いますよ。無意味に長く生きるよりも、桜のように儚く、それでいて激しく生きたいって僕は思ってます。悟空はどうなんですか?」 「俺は……」 悟空は上に咲き誇る桜を見上げる。 儚いからこそ、美しい桜。 永遠ではないのはどうしてか、無性に悲しくなる。 それでも…それでも… 「…俺もずっと咲いてる桜より、こっちの方がいい」 どこかで見たように感じる、永遠に咲き続ける桜の木。 その桜も美しかったが、どこかくすんで疲れているように見えた。 咲き続けることに疲れてしまっていたのだろうか。 そんな桜よりこの、目の前にある桜はとても生き生きしているように見える。 「もしかしたらさ……。ずっと咲き続けねえで、すぐに散っちゃうから、桜って綺麗なのかもな」 何気なく悟空は月に輝く桜を見て呟いた。 悟空の言葉を聞いて三蔵達は思わず顔を見合わせる。 そしてそれぞれ思い思いの表情をすると、悟浄は悟空の髪をくしゃくしゃとかきまわした。 「バカザルのくせにそんな情緒あふれるセリフをはくなんて、熱でもあるんじゃねぇのか」 「なんだよ悟浄!! オレがなに言っても俺の勝手だろ! いちいちつっかかってくんな!!」 「つっかかりたくなるんだよ、お前からそんな科白を聞くと背中に寒気が走るんだ。おお寒!」 「なんだと、このゴキブリエロガッパ!!」 「ゴキブリって言うなこの大バカコザル!!」 「なにい!!」 「うっせえ!! この馬鹿コンビ!!」 ズカン!! 三蔵のハリセンガ2人の頭に見事にヒットした。 「あ〜あ、せっかくいい雰囲気だったのに…」 すっかりいつもの騒がしい雰囲気に包まれて、八戒は呆れた様に微笑む。 しかし、どこか、心が落ち着いてくる。 これが自分たちのあり方なのかもしれない。 その時その時を自分の思う通りに激しく生きる。 桜と一緒ですね、やっぱり。 そう思って苦笑を微笑みに変えた。 「ほらほら、もうそこまででいいでしょう。せっかく花見に来たんですから、ね?」 八戒が宥めに入る。 彼らの上の桜は相変わらず風に吹かれ空を舞う。 月に別れを惜しむように、また会おうと約束するように。 月もそれに答えるかのように優しく輝き続けていた。 ずっと忘れない…。 誰かが呟いたようなその声は風に送られ、月と桜の中に消えていった。 |
||
| あとがき。 何かいてんでしょうか、あたしは! すみません、もろ駄文!! これ、2月号のGファンの最遊記外伝を見て思いついた話です。 なんか急に頭ん中に浮かんで…。すぐに消えましたけど(〜〜;) 桜は儚いからこそ美しい、永遠じゃなくてもまた会える。 なんか、金蝉達の事を言っているようにも感じました。 題は桜月下(おうげっか)と読みます。 その名の通り桜と月の下、という意味です、はい。自分で勝手に作った言葉です。 こんなもんですが、読んでくださった方、本当にありがとうございました! |
| anam様、ありがとうございましたっvvこんなに素敵な小説を頂いてしまってvv『桜月下』という言葉、綺麗で響きが好きです。レイアウトが下手くそですみませんっ!デザインを勉強しなきゃですね(汗)。外伝と本編のかけあわせが良いですね〜。『ずっと忘れない』想いがあるって素敵だと思います。この場合、記憶封印されてるじゃん、なんてお約束のツッコミはしちゃだめですよ!(そんなのお前だけだ) |
ブラウザの戻るでお戻りください