Myself
失いたくない、そう思った。
『何ガラでもねえことしてんだよ!』
前にも、感じたことがある。
昔のこと覚えてないけど、すっげー守りたいものがあったのは覚えてる。
何を?
誰、を?
『うん、強くなる』
絶対に、強くなる。無様に死んだりしないように。
コイツらの前でだけは絶対。
『俺を止めてくれる?』
強くなりたい、今よりも、ずっとずっと。
自分の弱さに負けない強さを。
手に入れたいと思ったんだ。
「何だ」
不意に三蔵が俺の方を見た。
「へ?」
「人の顔じろじろ見てんじゃねえよ」
顔見れば分かるけど、三蔵思いっきり不機嫌そうな顔してる。
いつものことなんだけど。
「べっつにー」
なんか変な感じがしたんだ。
この前まで、寝込んでてここにいなかった三蔵がここにいるのが。
よくわかんねえけど、ほっとした。
三蔵が起きてきて、良かったと思った。
すごくうれしかった。
でも、そんなこと言ったら、多分また殴られるからぜってー言わねえ。
『勝手に殺すな』
って言われるに決まってる。
あの時、俺は三蔵も八戒も悟浄も殺そうとしてた。
殺したくねえって思ったのに、体が勝手に動いて。
自分じゃどうにも出来ないって分かっていたのに、それでもその強さに手を出して。
結局は、三蔵たちまで危ねぇ目にあわせた。
俺、馬鹿だ。あんなの、本当の強さなんかじゃないのに。
本当の強さは、今の俺が手に入れなきゃならないのに。
「悟空」
俺の目の前に、八戒がカップを差し出した。
あったかい、ココア。
甘い匂いが広がるみたいに、モヤモヤも消えてしまえばいいのにな。
「あたたかいうちにどうぞ」
「ありがと」
俺は、それを受け取った。
ベッドのうえに腰掛けてた俺の横に、八戒が座る。
三蔵と悟浄は椅子に腰掛けてたから、ここしか座るとこねえもん。
椅子二つしかねえし。
「悟空」
そういや、何で、三蔵も悟浄も八戒もお茶なのに、俺だけココアなんだろ。
って言うか、どこにあったんだ、これ。
…聞いたところで、かわされるからいいや。
一口飲むと、口の中に甘さが広がる。
「また、何を考えているんです」
「・・・俺ってさ、何なのかなあって」
「何って?」
「だって、そうじゃん。何かとんでもないことやらかして五行山に閉じ込められて、でも、何やったかぜんぜん覚えてなくて」
もし、俺がとんでもない奴だったら、皆と一緒にいられなくなる。
「それでも、悟空でしょう」
「え?」
「それでも、今ここにいるのは悟空でしょう?」
ここにいるのは、俺?
「昔がどうであっても、悟空は悟空でしょう。あの時みたいに妖怪になったとしても、悟空は悟空なんです。それとも、今の悟空以外の存在があったとしたら、悟空ではなくなるんですか?」
「???」
えっと、よくわかんねえけど、八戒は俺は俺でいいって言ってくれてるのかな。
「俺は、・・・俺だよ」
八戒は俺を見て笑った。
「それにね、悟空」
八戒は俺の耳元で、小声でささやいた。
俺はそれを聞いて、すごく驚いた。
だって信じられなかったんだ。
『三蔵は、妖怪になったからって、貴方を見捨てたりしなかったでしょう』
だって、どうでもいい人であれば銃で撃てば良かったんですから。
意外なものでも見るように、三蔵の顔を眺めていたら、三蔵がまた睨んできた。
「だから、何だってんだよ」
俺は、何かおかしくって、声を出して笑った。
三蔵は、変な顔してたし、八戒は笑ったままだったし、悟浄は不思議そうな顔してた。
「べっつにー」
外へ向かう窓をいっぱいに開けたら、夜風が部屋に入ってきた。
それがとても気持ち良くて、少し目を閉じてみる。
目を閉じても、星の瞬きを感じた。
まるで、風を感じるように。
目を閉じても分かる。
――――俺はここにいるんだ
END
あとがき
御粗末様でした〜。悟空殿の心情って難しいでございます。
考えていないようで、考えているというか。つまりは、一番書きにくいです。
八戒殿とか、三蔵殿とかの方が書きやすいですね。
考えてること、何となく感じることは出来るのですけど、
文章にすると、如何ともって感じでございまして。
八百鼡殿、八戒(悟能)殿は、ラブラブで書いてみましたけど。
本当は書いてるほうが恥ずかしいです。ギャグは書けませんからねぇ。
こんな感じでいかがでしょうか。というか、まとまりがなさ過ぎで・・・(泣)。
ごめんなさいです。
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