Prologue

By.向日葵様



 
――― それは幸せな時 ―――

太陽が西に傾きかけ空が淡いオレンジ色に染まる頃時折吹く心地いい風を全身で受け止めながら猪悟能は家路へ急ぐ。幼い頃心を閉ざしていた悟能は自分の片割れを求め彷徨っていた。愛されることの喜びを求めて。そしてやっと見つけた自分の片割れ。愛さなければ愛されないことを教えてくれた双子の姉花喃。ようやく手に入れた幸せ。穏やかで充実した日々。


<貴女の為なら何でも出来る。貴女の為なら何にだってなれる>


その気持ちだけが今の悟能を支えていた。

「ただいま!花喃」
「おかえりなさい。悟能」
「なんだか急いで帰ってきたらお腹空いちゃったな」
「フフフ。わかったわ。すぐに支度するわね」
花喃は慣れた手つきでテキパキと食器を並べていく。テーブルの上には出来たばかりの料理が並べられていく。二人は向かい合って座るといただきますと手を合わせ置いてある箸に手をつけ食事を始めた。
「花喃。今日は綺麗な星空が見られそうだよ」
「えっ、本当!」
「うん。帰ってくる時夕日がとっても綺麗だったんだ。きっと夜になったら満点な星空になるんじゃないかな」
「うぁ〜。私見たい!」
「ははは・・・。そう言うと思ったよ。食事が済んだら見に行こうか。近くの丘なら良く見えると思うよ」
「うん!絶対行く!」
自分に向けられる曇りの無い花喃の笑顔を見ていると悟能の顔にも自然と笑みがこぼれる。
今まで体験したことが無かった安らぎの時。


<この幸せが永遠に続けばいいのに・・・・>


そう思わずにはいられなかった。


「ねぇ。早く行きましょう!」
「あぁ待って。そんなに焦らなくても大丈夫だから」
玄関先にはいまにも飛び出しそうな勢いの花喃の姿があった。
悟能はそんな花喃の手を取って玄関のドアをゆっくりと開けた。

外に出てみれば悟能の予想通り満点の星空と神々しいまでに輝き続ける満月が顔を出していた。
しっかりと握られた二人の手。歩くたびに地面に引き詰められた落ち葉がカサカサと音を立てる。夜になって少し冷たくなった風に花喃の体が震え出す。
「寒いの?花喃」
「えぇ。やっぱり何か羽織ってくればよかったかな・・・」
「ほら。僕のジャケット着ていた方がいいよ」
悟能は自分の着ていたジャケットを脱ぐと花喃の肩にそっと掛けた。ありがとうと言った花喃の笑顔に悟能の心は癒されていく。
「あともう少しだから頑張って」
「えぇ」
軽い斜面を悟能は花喃の手を取ってゆっくりと上っていく。そして遂に上りきってみれば今にも手が届きそうなくらい近くになった星空が二人を迎え入れた。
「悟能見て!すっごく綺麗な星空!」
花喃は星空を見上げ歓声を上げる。両腕をの伸ばし2,3回クルクルと回ると少しバランスを崩したのか地面に倒れそうになった。
「あっ!危ない!」
危機一髪の所で悟能が花喃の腕を軽く引き寄せその体を優しく抱きしめた。
温かい温もり。二人の時間がゆっくりと動き出す。
「悟能・・・」
「ん?」
「私・・・今までずっと一人で見てきたけどこれからはもう・・・一人じゃないんだね」
「・・・そうだよ。これからはずっと花喃の傍にいるよ」
どちらからともなく抱きしめていた体を少し離すと同じ深緑の瞳を見つめる。
その瞳に吸い込まれるように二人は最後のキスをした。



―――
それは悲劇の始まり ―――


次の日。今日も悟能は学校から家路へ急ぐ。空を見上げればもうすっかり暗くなっている。
今日は昨日とは打って変わって曇り空。今にも雨が降りそうな勢いだった。


<花喃心配してるだろうな・・・>


そんな思いが悟能の体を走らせそのかいあってかいつのも時間より少し早めに家の前まで付いた。が少し様子がおかしい・・・。何時もなら明かりが付いているはずの部屋が今日は真っ暗。出かけているのかな?と思いつつも玄関のドアを開けた。
「ただいまー。ごめん遅くなって。生徒達と遊んでたんだけどなかなか終らなくてさ」
と言い終えた所で顔を上げてみるとそこはまるで地獄絵図のようだった。
惨状と言っていいほどに荒らされた無人の家には既に花喃の姿はなかった。
なぎ倒された家具と一緒に落とされている懐中時計。手に取ってみると鎖は切れガラス盤には亀裂が入り針が示している時間は一時二十三分。二人の運命を大きく変えた
瞬間。
「花喃!!」  
悟能は壊れた懐中時計を握り締め急いで家を後にした。


「仕方ない!仕方なかったんだよ!花喃を差し出さなければウチの娘が連れて行かれたんだ」
「あんたも知ってるだろ?女狩の百眼魔王がこの町に来たんだよ!」
仕方ないと説明する町長。泣き叫ぶ女達。そんな姿を目の当たりにした悟能は冷めた口調でこう言い放つ。
「それで・・・花喃を身代わりに?」
「あぁそうさ!俺の大事な娘をあんな化け物にやってたまるか!親もいないあんた達にはわからんだろうがな!」
町長の言葉に悟能の目付きが変わる。鋭い眼光には全てをそして自分自身を憎む気持ちが込められていた。そして密かに持っていた青竜刀を引き抜き静かに振り下ろした。


「花喃・・・花喃ごめん。好きだって言ってたのにな。この両手・・・真っ赤なんだ」
血塗れの左手を自分の前にかざし視点の合わない目付きで呟く・・・。
「助けに行くから。必ず行くから・・・。だって僕は君を愛してるから・・・」


    

    【あとがき】   この作品は最遊記第二弾です。
             相変わらずヘボですが・・・(苦笑)
             一応花喃との最後の夜を書いて見ました。これも書きたくてしょうがなくて書いたのに
             二人の雰囲気が上手いこと出せす苦戦しました。
             私個人的にはこの二人には何時までも幸せに暮らしてほしかったかなって気がします。
             あぁ!それじゃ三蔵達に会えなかったのかな?(笑)

カンシャのキモチ

これまた向日葵様より強奪いたしました、悟能殿×花喃殿のNovelですvv
ホント、無理言ってスミマセン(汗)。
ラブラブ指数があがりっぱなしで、思わずニヤけてしまう代物ですわっっ!!
レイアウトは、前のと対になるようにやってみたのですが、
何分、デザイン力が足りないもので・・・。
んで、何となく印象の強かった台詞を強調してみました。
ちょうど、場面や想いの変わり目のような気がしましたので。
倖せから悪夢の底へと堕ちていく、色で例えるならば、白から黒へって。
向日葵様、ありがとうございますvv
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