Reason
for
being
By.日葵 様



――― コロセ ―――
     

ザラザラした声がの内側をなぞる

――― コロセ ―――

ねっとりとへばり付いて気持ち悪い

――― コロセ ―――
    
を?

――― コロセ ―――

を?

――― コロセ ―――

せ・・・・










「まったくあいつ何処にいるんだ?」

広い城内の中にある長い廊下を悟空は一目散に走り続けていた。
”あいつ”とはこの天界で数少ない友達の一人ナタク。
悟空はその存在が故に異端な生物として天界に連れてこられた。
やっかみをかい白い目で見られるのもしばしば。
そんな中で初めて自分のことをあっさりと受け入れてくれたのがナタクだった。
天界で出来た初めての友達・・・。
その友達と約束を果たすべき今日はナタクを探している所だった。

「それにしてもここ広すぎ!!同じような扉ばっかでゼンゼンわかんねーよ!」

一度だけナタクの部屋を訪れたことがあった。
その時はナタクが瀕死の重傷をおい周りが慌しいこともあって訳がわからず
部屋に転がり込んだ為正確な位置など覚えているはずも無くイライラはつのるばかり。
いっそ全部の扉を壊してやろうかと考えたがそんなことをしたら金蝉に怒られるのが
目に見えている。

「金蝉ってば本気でキレると怖いからやめとこ・・・」

悟空は金蝉の不機嫌そうな顔を思い出して軽く身震いを覚えた。


薄暗い部屋の中。一人で寝るには広すぎるベットの上でナタクは静かに目を開ける。
おぼつかない意識の中ではっきりと覚えているのは
自分にコロセと命令する声。そして・・・気持ち悪い感触。
その声に抵抗したい。でも逆らうことなど出来ない。
何故ならその声の持ち主は自分の存在理由になっている人物なのだから。
でも・・・・。
このままこうしているとあの気持ち悪い感触が戻ってきそうだった。
ナタクは”フゥ〜”と深い溜息を一つ吐くと寝ていた体を静かに起こしてベットから立ち上がった。
   
「あ〜あ。あんな夢見たせいでテンション低くなったな・・・。散歩でもしてくるか」

ナタクは素早く身支度を整えると重い扉を開け自分の部屋を後にした。



何気に外を眺めてみる。
真っ青な空に何処までも続く白い雲。
その雲の合間から微かに見えるピンク色の桜。
凛とした空気が流れてくる。
自分に翼があったらすぐにでも飛び出したい。
   
「俺は殺人人形・・・。きっと自由なんて手に入らないんだろうな・・・」

自分の言葉に苦笑する。
わかっている・・・。わかっているけど言わずにいられない何かがある。
ナタクの心は目の前に広がる青空とは対照的に灰色の雲が立ち込めていた。


「・・・・ク!ナタ・・・ク!ナタク!!」


突然自分の名前を呼ばれて振り返ってみれば小柄な男が自分目掛けて走ってくる。
金色の大きな瞳を輝かせナタクの腕を素早くつかんだ。

「捜したぜナタク!ここ広くてさ〜捜すの大変だったぜ」
   
不意打ちとも言える悟空の登場にナタクは少し戸惑いながらも自分を捜していたと
言う理由を聞いてみる。

「あぁ・・・そうか。で、今日はなんの用だ?」
「木苺探しに行こうぜ」
「はぁ?」
「あっ!お前忘れてるな!この間約束したじゃん。木苺なってる所に連れてってくれるってさ」
「あぁ・・・そうだったな。でも・・・今日は勘弁な」
「え〜。なんで?」 
「俺今から下界へ行かなきゃならないんだ。だから無理。帰ってきてからでいいだろ?
すぐに終ると思うから・・・。なぁ?」
「う〜ん・・・・」

楽しみにしていた木苺探し。行きたいのはやまやまだがナタクの用事を考えると
無理強いは出来ない。
悟空が頭を振り絞って考えた結果・・・

「うん!わかった。すぐに帰って来いよな。ナタク」

太陽の様にキラキラした笑顔。今のナタクには眩しすぎて痛い位だった。

――― それから数日後 ―――


「よぉ!悟空」
「あっ!ケン兄ちゃん!天ちゃんも!!」
「こんにちは。悟空」

大柄の男2人が交互に悟空の頭を撫でる。
その目の前には不機嫌そうな顔の金蝉が自分の椅子に踏ん反り返って座っていた。

「なんだお前ら。2人揃って・・・」
「おーおー。今日も相変わらずご機嫌斜めってか?」

イヤミを含んだ捲簾の言葉に金蝉の機嫌は一気に急降下する。
  
「なんだと・・・」

何時もの倍近く眉間にしわを寄せ捲簾を睨みつければ

「まぁまぁ・・・落ち着いて」
 
と、言って天蓬がなだめに入る。

「実はですねナタク太子が下界から戻ってくるらしいんです」
 
天蓬の言葉に悟空の瞳がこれでもかと言うほど輝きを増していく。

「ナタク帰ってくんの?!行く!行く!!」
「そう言うと思ったぜ。お前も行くか?金蝉」
「いや。俺はこの書類をババァの所に届けなきゃならない」
「なぁ〜ケン兄ちゃん。早く行こう〜」

悟空は待ちきれない様子で捲簾の袖を力強く引っ張った。

「コラ!そんなに引っ張るなよ!すぐに連れてってやるから」
「わ〜い!!」

そんな2人の様子を見ていた金蝉が落ち着いた口調で天蓬の名を呼ぶ。

「・・・天蓬」
「判ってます。悟空とナタク太子があんまり親密になるのは危険だと言うのでしょう?」

天蓬はくわえていたタバコの煙をゆっくりと吸い込むと同じ速さで天上に向かって吐き出した。

「まぁ・・・ナタクの父李塔天のこともありますしね。でも・・・きっと僕らは望んでしまって
いるのでしょうね。あの子の笑顔を・・・」
「笑顔・・・か・・・」

2人の視線の先には汚れを知らない魂の輝かしい笑顔。

-----お前はあのチビの太陽でいられるか?-----

フッと金蝉の脳裏に観世音菩薩の言葉が過ぎった。




「ご苦労であったなナタク太子。この度も見事な働きぶりだったと聞く・・・」

下界から帰ってきたナタクに天帝が労いの言葉を掛ける。
しかしその言葉に答えるのはナタクの父李塔天。
何もしていないのにさも自分が立てた手柄だと言わんばかりの態度。
ナタクはいい加減嫌気がさしていた。
何度この光景を目にしただろうか・・・・。
     
「下がってよい。ゆっくり休むと良い」

やっと帰れるぜ・・・。
そんな事を思いながらこの部屋を後にしようとしたその時
大勢の人ごみの中から悟空が顔を覗かせた。

「お〜いナタク〜!こっちこっち〜!お帰り〜!」
「あっ!お前は・・・」

自分に向かって手を振る悟空の姿を見たナタクの表情は歳相応の無邪気な笑顔を
浮かべていた。
そして悟空に近づこうとしたその時

「ナタク・・・」
「父上・・・?」
「あの子供下界で生まれた異端な幼児だな?」
   
李塔天は口の端を少し吊り上げ意味ありげな笑みを浮かべると
我が息子ナタクの耳元でそっと呟く。

「・・・殺せ」

呪文のような李塔天の言葉がナタクの脳に侵入してくる・・・。
体が硬直する・・・。
そしてあの時の気持ち悪い感触が蘇る・・・。





――― コロセ ―――
     

アイツを?

――― コロセ ―――

せるか?

――― コロセ ―――
    
本当に・・・せるか?

――― コロセ ―――

・・・せる

――― コロセ ―――

には自由など・・・無い




ンシャのキモチ

向日葵様より頂きましたv
天界編ですわ!!しかも、イタイお話です。
本編が物凄いことになっているので、
こう、ほのぼのした何気ない風景が余計悲しいですね。
最後の台詞も、淋しく思います。
欲しいと思うキモチと、出来るはずが無いと思うキモチ。
どちらもあるけれど、結局は抗うことの出来ない結果へと行き着く。
それでも、抗いたい何かがあったから、最期はあぁなってしまったのですね。
スミマセン、ネタバレしてますな(爆)。

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