心配するにらない心配ゴト






自動ドアが開けば、
重々しいコンピュータの群れは、どれも休む暇無く、
フル稼働している。
無機質な足音がカツンと響いたが、
それらの電子音の中、あっさりと掻き消える。
だが、その真ん中にいる人物はすぐに気付いてくれるだろう。
「キンちゃん、休憩しよ?」
思いの外幼い顔立ちの青年が、没頭している彼に声をかけた。
長い金髪は1つに結われ、垂らされている。
同じ金髪をした青年は忙しない仕草で顔を上げた。
指は止まらずにキーボードを叩いている。
目にも留まらぬ速さで、画面には数百のプログラムが組み立てられていく。
「…グンマ」
うっすらと目の下にクマが浮かんでいる。
彼がロクに睡眠も取らずにいるせいだとひとりごちた。
「根詰め過ぎても、頭の回転が鈍るだけだよ」
「だが、こうしている間にもシンタローは」
「心配なのは分かるけど、僕達が倒れちゃったら、誰がシンちゃん助けに行くの?」
お父様達の頭脳じゃ絶対ムリだよね、とにこやかに告げる。
更に優秀なブレインがいるにはいるが、
彼はキンタローとグンマの為にしか働かないという欠点があるのだから、
どうしようもない。
「お前は」
「何?」
「焦らないんだな」
彼とて心配であることには違いない。
キンタローは織っていたからこそ尋ねた。
何故、そのように振舞っていられるのかと。
確かに、同じ研究者と言っても、
今必要なのは開発系のグンマではなく、
情報解析系のキンタローの頭脳だ。
彼ほど切羽詰まった様子が見られないのも頷ける。
だが、キンタローを急かすこともしない。
「うん、焦ってないよ」
何度かぱちくりと瞬きを繰り返し、グンマは面白そうに笑った。
無邪気であることこそが、彼の利点。
柵ばかりの青の一族の救い。


「だって、あの島だよ?」


彼が掛けている傍の椅子を引き寄せ、自分も腰掛ける。
「元ガンマ団総帥の息子でもなく、今のガンマ団総帥でもなく、ありのままのシンちゃんを受け入れてくれた場所なんだよ?」
そうあらねばならなかった彼ではなく、
ひとりの人間としての彼を初めて受け入れた場所。
地位も名誉も関係なく。
そうしてそれは、赤の一族も青の一族も関係無しに。
ただ、あるがままに。
「何を心配することがあるのさ」
朗らかに笑みを浮かべる彼に、
キンタローは始終動かしていた手をようやっと止めた。
「シンちゃんのロングバケーションって思えば良いじゃない。どーせ、今頃楽しそうに家事でもやってるよ」
言われ、キンタローは苦笑した。
異世界を漂っているなど、休むには絶好の言い訳だ。
総帥である彼に働き過ぎだと忠告したのは、自分であったはずなのに。
「…そうだな」
「でしょ?」
グンマは立ち上がり、彼の腕を引く。
「だから、今は休憩。おいしいコーヒー淹れてあげるからさ」
ね?と首を傾げて微笑う従兄弟に連れられるまま、
キンタローは腰を上げてドアへと向かった。




END



あとがき。
PAPUWAネタ。
発信機壊れてるんじゃないの、キンちゃん辺り。


ブラウザの戻るでお戻り下さい