ほら、空を見上げて。
こんな天気のいい日には2人で出かけよう。
迷いも不安も、何もかも忘れさせて。
「起きて、ケイン!」
勢い良く、ベッドの向こう側のカーテンを開く。
2人…いや、3人はケインの祖母の家に、まだ滞在していた。
眠たげに目を擦る彼を見て、微笑む。
こんなにも穏やかな日常。
たまらなく倖せになる。
「う…ぅん」
ミリィは、まだ寝ぼけているケインの瞼にキスを落とす。
「ね、ケイン」
顔を向かい合わせて、微笑む。
「お弁当もって、遊びに行こう?」
だって、こんなにも晴れた天気の良い日なのだから。
キャナルに留守番を頼み、2人で出かけた。
バスケットに、簡単に拵えた昼食をいれて。
「そんなに急がなくても」
開けた場所を見つけ、ミリィは走り出した。
ケインが苦笑しながら、彼女へと呼びかける。
半ば叫ぶようにして、彼に返事をした。
「だって、綺麗なんだもの!」
両手を広げて、くるりと廻った。
「木々やお日様に感謝したくなるわ」
その声に応えるように、ざわざわと木々が囁いた。
きらきらと零れる日差しが、翠を優しく照らす。
「ね、そう思わない?」
「そういうのもいいんじゃないか?」
「答になってない」
ぷぅ、と頬を膨らませ、ミリィはそっぽを向いた。
笑いながら、彼は謝る。
「悪かったって」
「…本当にそう思ってる?」
視線だけを投げて、先を促す。
「あぁ」
頷く彼を見て満足したのか、ミリィは草原へと座り込んだ。
「貴方が…いるからよ」
「?」
彼女の隣へと腰掛け、不思議そうに見やる。
「貴方がいるから、この世界が輝きだすの」
ケインの肩へともたれかかり、目を閉じる。
「貴方が居たから、私は今まで壊れないですんだのよ」
「それは、お前自身の強さだ」
きっぱりと告げる彼に、苦笑する。
「そう、だといいけれど」
感謝したくなるわ。
全てに。
『いっそ、生まれなきゃ良かった』
そんなあの日にも。
不思議と不安定な彼女に、ケインは首を傾げる。
無理をしているように見えてならない。
「ミリィ?」
何?と顔を上げるミリィは、普段と変わりなくて。
それがますます、違和感を募らせた。
「…ケンカ、ね。するでしょ?」
唐突に吐き出された台詞。
ケインはどう答えてよいかわからずに、黙って耳を傾けた。
「あとで、しなきゃ良かったーって思うんだけど」
「うん」
「半分、だけ。嬉しいって思うの」
全部ぶつけあって、でも、それはお互いを分かりたいからであって。
他人だから、違う思いを持っているのは当たり前のこと。
衝突し合えるだけの感情を持って接することのできるヒトだからこそ、大切に思える。
だから、ね。
「ケンカした分だけ、そのヒトを織ることができるから」
「ミリィ?」
「いっぱい、いっぱい、貴方のこと教えてね」
手を伸ばして、ケインの胸へと顔を埋める。
「いつも、貴方を起こしてあげるから、ちゃんと目を開けてね」
心なしか、声も肩も震えている。
「もう、いなく…」
「ならないよ」
ケインはミリィの言おうとした先を遮り、自分の声を被せた。
つ、と一筋の涙が彼女の頬を伝う。
「怖かったの」
ぽつり、と漏らす。
「朝、貴方は眠っているって分かってるのに、その目が開かない気がして」
言葉と一緒に、涙も落ちた。
「父さんや母さんみたいに、目を開けてくれない気がして」
縋る手には、段々と力が篭っていく。
「怖かったの…っ」
ぽんぽんと、宥めるように頭を撫でて、ケインは優しくミリィを抱きしめた。
「ずっと、傍に居る」
永遠なんてありえないけれど。
この命尽きるまで。
死が2人を別つまで。
私はずっと、そばにいるから。
この身が朽ち果てても、想いは貴方の傍にあるということ。
忘れないで。
「うん。私もずっと、傍にいたい」
君が何時しかこの世を去る日には
どんな気持ちで朝を迎えるの?
例え いつか1人になっても・・・
例え、1人になったとしても後悔はしない。
本当はそんな先のことは分からないけれど、
でも。
いつかその日が来たら。
『ありがとう』と言える自分でいたい。
END
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