それとはなしに綴られる回想 |
理事長兼校長室、とでも呼べば言いのだろうか。 質素に造られてはいるが、何処か豪奢なその部屋を。 軽くノックがされ、扉が静かに開く。 「兄さん」 顔を見せた弟に、彼はほんの少しだけ驚いた表情を浮かべた。 だが、すぐに皮肉げな普段通りの笑みを口元に貼り付ける。 「サービス、珍しいな」 後ろ手で扉を閉め、サービス客人用の椅子に腰掛けた。 屈んだ瞬間に、髪で隠された美しい面の抉られた右目が垣間見える。 一瞬だけ彼が顔を顰めたのに気付かない。 「シンタローに祝いを言いに」 「そうか、喜ぶだろう」 くるり、とマジックは椅子を回して、弟に背を向けた。 後ろ一面は窓になっており、校舎内が良く見える。 こちらの姿が映るほどに磨かれた硝子は、皮肉な程にきらきらしい。 サービスは、その兄の背をちらりと見やり、口を開く。 「今回の士官学校入学者には、随分Japaneseが目立つね」 どんな表情をしているのだろうか。 身じろぎもしない彼はまるで鉄の仮面でも被ったかのように静かだ。 彼の息子に見せる溺愛振りとあまりにかけ離れたそれは、 それこそが本当の顔なのだと思わせないでもない。 事実、それはその通りで、けれど愛しい息子を想うものも本当の彼なのだろう。 彼の二面性は残酷さを際立たせる。 「あぁ、適した良い人材が居たんだ」 何でも無いように紡ぐ彼に、サービスはふぅん、と漏らした。 疑う素振りは見せない。 疑っているつもりも無かった。 ただ、それだけが答えで無いことを織っていただけだ。 「あれじゃあ、シンタローの黒い髪と眼も目立たない」 金髪碧眼。 青の一族と呼ばれるガンマ団のトップ連中に、例外は無い。 無い、はずだった。 例え、他の人種と交わろうとも、それだけは変わることが無かった。 ただの一度も。 けれど、彼の息子シンタローは違った。 黒髪に黒い瞳。 母そっくりの色を宿した赤子は、あどけなく父を見上げた。 戸惑わなかったワケでは無い。 だが、自分の子どもではないのでは、などと疑いはしなかった。 面立ちは父親譲りだと、彼女は笑って言ったのだから。 ―――だったら、この子は希望よ 雁字搦めの束縛から、もしや放たれる日が来るやもしれぬと、 幼子に希望を託したのは嘘ではない。 重すぎる、そう思った。 ―――貴方の哀しまない日がいつか、訪れますよう 不安げに瞳を揺らす彼を見て、彼女は優しく頬に触れた。 大丈夫よ、と繰り返した。 あの時ほど、泣きたくなったことはない。 哀しみではなく、あたたかく心を埋め尽くすもので涙を流したいと思ったことは。 マジックは肩越しに振り返り、素知らぬ風に笑って返す。 「そうかい?」 異端とも呼べる黄金の中に落ちた黒。 彼を他の人間達が何と呼ぶかを織っていた。 「…兄さんらしいよ」 サービスは嘆息しながらも微笑んだ。 返事が無いのは分かっていたから、敢えて何も言わなかった。 相変わらず不器用なヒトだと思ったのは、 きっと気のせいじゃないだろう。 END |
あとがき。 |
PAPUWAネタ。 日記SSログに加筆修正。 会話文だけだったのに、妄想って凄い! |
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