エド、と呼ばれて顔を上げたら、 リビングで洗濯物を畳み終えたウィンリィが口を開いた。 「キスしよ?」 持っていた本がどさりと音を立てて足元に落ちた。 落とした。 「……………………………………………ハイ?」 たっぷりとした沈黙の後、呆けた顔のまま、 エドワードはそれだけを口にした。 |
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心配そうに鳴いた愛犬が彼の足元に擦り寄る。 最早、同情の域に近い気がしないでもない。 「キスよ、キス。ちゅーしよ」 既に質問でも無くなっている彼女の台詞に、エドワードは呆け続けるしかない。 そもそも、ウィンリィの言った意味を半分ほども理解出来ずに、 上手く考えの纏まらない頭をフル回転させていたのだから、 あまりの唐突さに未だ呆然としていても誰にも責められはしないだろう、多分。 「エード?」 「ぅ、わあああぁぁぁぁッッ?!」 ずいっと顔を近付けたウィンリィを避けるようにして、 ソファの上に仰け反る。 その顔は言うまでも無く真っ赤だ。 「なんっ、な、お、ま…ッ?!」 声を詰まらせ、必死に逃げようとするエドワードを抑え込み、 がっしと両手で彼の顔を挟む。 それでも逃げようとする彼に頬を膨らませ、 ウィンリィは何よぅと呟いた。 「…や、なの?」 厭ではない。 間違っても、ソレは無い。 問題だったのは、エドワードの度胸と勇気と平常心。 更に問題だったのは、 ソレを説明出来るだけの言葉をとっさに選ぶことが出来なかったエドワード自身。 「別に、良いもん」 「ウィンリィ」 背中を向けてしまった彼女は、膝を抱えている所為か、更に小さく見える。 「ウィンリィ」 「も、良いったら」 呼び続けるエドワードに、不貞腐れたようにウィンリィは口を尖らせる。 初めてならまだしも、日常的に交わすようになったキスですら彼は躊躇った。 大部分は照れによるものだったけれど、それでもウィンリィは気に入らない。 自分の言い方が不味かったと思わないでもなかった。 だがそうだったにしても、あんな拒み方は無いと思う。 「ウィンリィ、ごめん」 さすがにここまで彼女が落ち込むとは思っていなかったエドワードは、 ウィンリィの肩口に額を押し付けて謝る。 ぴくり、と小さな肩が揺れた。 それでもこちらは見ようとしない。 エドワードは覚悟を決めた。 「イヤじゃ、無いから」 ばくばくと心臓が喧しい。 昔だったら、どう足掻いても絶対に口にしようなどと思いもしなかった。 火照る頬から火が出てもおかしくない。 エドワードは深呼吸をして、だから、と言葉を切った。 「…キス、しよ」 じっと目を閉じて返事を待つ。 動こうとしない少女を恐る恐る覗き見る。 微かに潤んだ瞳にぎくりとしたものの、吸い込まれるようにして顔を寄せた。 後ろから抱き締めて、触れるだけのキスをする。 「…まだ」 キス。 「もっかい」 キス。 「もっと」 キス。 「…まだ、足りないのか?」 繰り返し、繰り返し、口付ける。 「全然、足りない」 ウィンリィはエドワード側へ倒れ込むようにして首に腕を回した。 彼も抵抗すること無く、後ろへと倒れる。 抱き締めあったまま、キスの雨は止まない。 「なぁ」 合間に、エドワードは口を開く。 「どうしたんだ、急に」 「別に」 「別にってことは無いだろ」 「前にさぁ、言ったじゃない」 漸くキスを止めたウィンリィは、かぷ、とエドワードの首筋に噛み付いた。 「キスって、チョコレートみたいに甘いのかなぁって」 そういえば、言われたような気がする。 くすぐったい首筋を我慢しながら、ぼんやりと思い出す。 それが何だと言わんばかりに、エドワードはウィンリィに視線を投げた。 「ただ、思い出しただけ」 「で?」 「ん?」 「甘かった?」 悪戯っ子のように頬を緩める彼に悔しさを憶えたけれど、 それも含めて愛おしいのだから仕方が無い。 ウィンリィはエドワードに覆い被さり、息が続かなくなるまで深く口付けた。 「とびっきり」 殺す気か、と睨む前にぺろりと唇を舐められる。 彼女があんまり嬉しそうに笑うものだから、 エドワードは苦情を言うのも忘れてもひとつおまけだとキスをした。 END |
あとがき。 |
チョコレェト・デイズの後日談、と言うか未来編(笑)。 |
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