Take Shelter




ザァ―――…。


雨の音が聞こえる。



ザァ―――…。



聴覚をイカレさせる、煩いだけのノイズが。



ザァ―――…。



俺を侵していく。



ザァ―――…。



いっそ。



ザァ―――…。






殺してくれたらラクだろうに。








手を伸ばし、雫に触れる。
指に触れた雫は跳ね返り、地へと落ちる。
「アメ」
機械的に紡がれる台詞。
「冷たい、アメ」
意思を持たない言霊。
伸ばしていた手を戻し、濡れたソレを舐める。



「血の、味がする」



あぁ、ドウシテ。




こんなにも、イタイのだろう。






「嘘ばっかり」
ぽつりと呟く。
犬のように、体を震わして水気を払った。


「雨は、何の味もしないのに」


あぁ、ドウシテ。



気付いてくれないのだろう。





傘も持たずに歩き出す。
足元の水溜りが、幾つもの波紋を導いた。
ソコに映るのは暗い雲。
幾筋もの雨。
もう1つの、同じ世界。
どこにいるのかも分からずに。
けれど、どこにいるのか確信を持って。
悟空の足は『彼』を目指す。

見えない絆。
ソレがもしあるのだとしたら、まさしく彼らを結びつけるモノ。
見えない、輪廻の鎖。
結び付けるのか。
縛り付けるのか。

神さえも、織り得ることなど出来はしないけれど。
傍若無人な黒髪の神が、そう言った。



木々を潜り抜けて、そこに彼がいた。
雨に濡れることも構わないかのように、立っていた。
「三蔵」
彼の名を呼ぶ。
気付いて欲しいかのように。
己がココにいることに。
すぐ傍に立っていることに。
返事はない。
「三蔵」
もう一度呼んだ。
まだ子どものあどけなさを残した少年が振り返る。
「…ずぶ濡れじゃねぇか」
たった今、彼の存在に気付いたかのように。
「莫迦か、お前は」
くわえていた煙草も、濡れて、既に火は消えていた。
雨で濡れた金の髪が、重たげに垂れている。
滴ってくる水滴は、雨に混じってよく分からない。
「俺が莫迦なら…三蔵だって莫迦だよ」
真っ直ぐに見つめて、言い返す。
ただ、淡々と。
ふい、と顔をそらして苦笑する。
「そうだな…」
呟く。
煩い、雨のノイズにかき消されそうな声で。
「俺は、莫迦だ」
自分へと言い聞かせるように。







「泣かないで」








決して近付くことなく、悟空は口を開く。

「泣いてねぇだろ」

三蔵はそっけなく返す。
だが、彼は繰り返した。




「泣かないで」





イラだったのか、三蔵の口調は怒気を帯びる。



「泣いてねぇって言ってるだろうが!」




拳は固められ、肩は怒りで震えている。
その背中に向かって、悟空は尚も言う。





「泣いてる」




幼子特有の高い声で。
癪に障ることを織った上で。



「泣いてるよ」



伝わってくる?
分かる?
違う。
そんなんじゃない。
ただ。
ただ、何となく。







「痛い…」








苦しげに、眉を顰め、目を閉じた。
胸を抑えて、まるで自分の方が泣きそうな顔をしている。
直接、彼が雨を嫌う理由を聞いたことがあるわけではない。
何も知らない。
知らないはずなのに、彼の感じている想いが同調する。
忘れたままの、知らない『何か』が、弾けた気がした。





目に見えないものを、悟ることの出来る者。


ソレが、『悟空』。




「…変なヤツだな、お前は」





三蔵は、背を向けたまま言葉を紡ぐ。
聴覚を蝕み続けたノイズが、段々と晴れていく。




気のせいかもしれないけれど。
彼が微笑んだ気がした。




雨が上がる。







「帰るぞ」






悟空の脇を通り過ぎ、三蔵は歩いていく。




「待てよ、三蔵!」




彼も踵を返し、三蔵の後を追っていった。

残されたのは、幾つもの水溜りに広がる波紋と。
ソコに映る蒼い空。

そして。





その空に跨る七色の虹。





雨は上がった。









END
あとがき。
何がかきたかったのか、分からない一品!(爆)
ほんとにねえ・・・。
ただ、こういうシチュエイションをかきたかっただけかも。
「泣いてる。」って悟空殿に言わせたかっただけです。
イタイとこつかれたけど、でも、救われたっていうか。

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