扉の向こうへ |
聞き慣れた呼び出し鈴が鳴る。 中からパタパタと足音が近付いてくる。 ドアノブが動き、開かれる扉。 「お帰り、アル」 長い金の髪を揺らし、昔よりも幾分大人びた少女が迎えた。 「ただいま、ウィンリィ」 同じく金の髪をした少年は、はにかむように微笑う。 昔は短かった髪も伸び、後ろで1つにまとめられている。 黒い服に紅いコート。 それは、在りし日の兄に似せた姿。 それでも、面立ちはあまり似ていないと織っていた。 「今度はどこまで行ってきたの?」 「セントラル抜けて、イーストシティまで。行ったり来たりだよ、ホント」 アルフォンス・エルリックはパンを頬張りながら、明らかに落胆の色を見せる。 シチューに突っ込んだままのスプーンを持ち上げ、口に運んだ。 「…どこ、行っちゃたんだろうね。あの莫迦」 楽しげにその様子を見ていたウィンリィ・ロックベルは僅かに視線を落とす。 「大丈夫だよ」 口の中のものを呑み込み、アルフォンスはパンを皿に置いた。 カップに注がれたお茶を取る。 「兄さんがそんなに簡単にいなくなるワケないじゃない」 彼は、兄エドワードと過ごした時間を置いてきてしまった。 物事の基本が彼らの行使する錬金術における等価交換と同じならば、 彼が払った代価とはそれだったのかもしれない。 記憶が無くとも、心はここにある。 兄を想う心は、確かにここにある。 例え、支払われた代価が記憶や思い出であったとしても、 新たにそれらを作り上げていく心は未だアルフォンスの元にある。 だからこそ、諦めない。 諦めることなど思いつかない。 「ううん、僕が必ず探してみせる」 自分に言い聞かせるように、アルフォンスは強く頷いた。 それにホラ、と添えつけのサラダのトマトにフォークを突き刺し、 くるりと円を描く。 「どうせ、あんまり小さくて見当たらないだけだよ」 本人が聞いたら激怒どころか暴走しそうな台詞をさらりと吐いてみる。 本人がいようが、彼らにしてみれば難なく買わせる怒りではあるが。 ウィンリィは思わず笑みを零す。 「…今頃、エドの奴、くしゃみしてるかもよ?」 「かもね」 同じようにアルフォンスも噴出す。 にこやかに、彼はウィンリィを安心させるように微笑む。 それは昔からだったように思う。 心配させまいと、柔らかく包み込むような。 反対に、エドワードの場合は心配させた後に、 哀しそうに、困ったように微笑うのだ。 「今度こそ、兄さんと一緒に帰ってくるから」 ウィンリィは頷き、けれど思い直して首を振った。 「ひとりでも良いから、たまにはこうやって顔見せて。私もばっちゃんもいつだって迎えるわ」 感情のままに突っ走ることは多々あったけれど、 情の深さは変わらない。 彼女にもう一度微笑んで、アルフォンスはそうだね、と返した。 彼女と思いっきり喧嘩出来るのはエドワードくらいだ。 あの頃と同じくらい元気なウィンリィを見たかった。 少し寂しそうに微笑う癖。 ずっと大人びて、とびきり綺麗になったけれど、どこか違う。 エドワードを探し、連れ戻すのは決して自分の為だけではないはずだ。 「ありがと、ウィンリィ」 アルフォンスは何度目になるか分からない決意を胸に、 まだ探し当てぬ兄へと想いを馳せた。 END |
あとがき。 |
映画を見る前に書いた代物。 見た後だったら、もう少し切なくなってたと思われます。 アニメと原作は違うモノ!と思わなければやってらんねぇっつの!!(笑) |
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