◆◇ロスト・ユニバース犬夜叉最遊記鋼の錬金術師TOD2◇◆




・ロスト・ユニバース・



カチリ、とコンロの火を点ける。
淡い群青の炎が一瞬赤味を帯び、元の色に戻って揺れる。
載せられた鍋からはくつくつと立つ泡から良い香りが漂っていた。
「忘れようと、思わなかったか?」
料理をしていたミリィの背に向かって、
リビングのソファに掛けていたケインはぽつりと零す。
「何、突然」
「いや、別に。何となく」
肩越しに振り返って、ミリィはお玉をくるりと宙で回した。
うぅんと唸って、不意に真剣な顔になる。
「…すっごい女顔で、年上には見えなくて、今時軍人でもないのにサイ・ブレードなんて武器持ってて、その上マントなんて羽織ってる変態」
「一応念の為に訊くが、それは一体誰のことだ」
「心当たりがある時点で認めてるのよ、ケイン」
苦虫を噛み潰したかのような声音と面持ちで睨まれるが、ミリィには痛くも痒くもない。
ずっとひとりで過ごしていた彼女にとって、こんな他愛も無い諍いすら楽しいのだ。
そう、彼らは帰って来た。
くすくすと笑いながら、ミリィは火を止めると鍋に蓋をして、彼の後ろに回り込む。
ケインを上から覗き込み、くすぐったそうにはにかんだ。
「そんなヒトを簡単に忘れられると思う?私は無理だなぁ」
思いっきり馬鹿にされた
――ような気がする――後に、
そんな顔を見せられると、怒る気も怒鳴る気も失せてしまう。
こつん、と見上げていたケインの額に、ミリィの額が触れた。


「約束」


落ちてくる柔らかな前髪がくすぐったい。
ケインはじっと彼女の言葉を待った。
「帰って来るって、約束したよね?」
「あぁ」
「で、護ってくれた」
「うん」
「私は忘れてなかった」
頷いていたケインは離れていくミリィの髪先をちょいと掴んだ。
それこそ目と鼻の先で視線が交わる。
蒼い瞳が揺らいだことには気付いたが、ケインは逸らさない。
「それじゃ、駄目?」
髪先に触れていた指を頬に伸ばし、両手でミリィの顔を挟んだ。
「あと一声」
ミリィの視線が泳ぐ。
誤魔化しきれない、そう思った。
誤魔化そうとのらりくらりと曖昧に答えていたミリィは、
やはり彼には敵わないのだと嘆息するしかない。


「…好きなヒトを忘れられる程、私、器用じゃ無いわ」


勿論、キャナルも含めてねと付け加えるところが彼女らしい。
満足そうに表情を柔らかくするケインに少々悔しさを覚えながら、
彼の額にキスを落とした。
仕方が無いのだ、どうしようもないくらいに募る愛おしさは。
珍妙でいけ好かなくて馬鹿にされっぱなしの出会いから数年。



あの日からずっと、貴方を、貴方達を忘れられなかった。


01 忘れられなかった。




・犬夜叉・



すっかりと秋色に染まる風が肌寒い。
山々は橙と山吹に色付き、見目麗しくも有る。
滞在している老巫女楓の居る村は何度訪れても和やかだ。
木の葉がかさかさと足元を通り過ぎると、かごめはふぅっと息を吐いた。
「変わらないのね」
「あ?」
隣に立っている犬夜叉を見上げ、何でも無いことのように言って退ける。
上目遣いのまま、かごめはあんたが、と続けた。
「口悪いし、乱暴だし、粗雑だし」
指を折りながら彼の性格をあげてみるが、
其れは全く当然のことで反論出来る要素は無い
――普通ならば。
「喧しいし、すぐおすわり言うし、泣きじゃくるし」
かごめの真似なのか、犬夜叉も同じように指を折って口調を似せて繰り返す。
瞳だけを動かして、彼はべぇと紅い舌を見せた。
口の端から覗く牙はヒトのものでは無い。
「御前も変わらねぇじゃねぇか」
ぴくりと片眉を吊り上げ、かごめは犬夜叉を睨み上げる。
視界に霞掛かった白銀と魔除けの深紅が広がった。
「言ったわね」
「言ったが如何した」
「お…」
ある単語の頭文字を悟り、犬夜叉はびくりと肩を揺らしてかごめの傍から飛び退いた。
耳は可哀想なくらいに垂れている。
かごめは悪いと思いつつも、思わず噴出した。
「冗談よ」
性質の悪い冗談だとぶつぶつ愚痴を零しながらも、
恐る恐るかごめの傍に戻る彼の姿は本当に犬そっくりだ。
だからと言って、頭を撫でたら間違いなく激昂するだろう。
「変わらないのね」
「未だ言うか」
足元の銀杏を拾い上げ、高く蒼い空に透かしてみる。
「変わらないのよ、きっと。気付いてなかっただけで」
かごめの指がすぅっと銀杏の葉を離すと、
支えを無くした其れはふぅわりと風に乗って数尺先に飛ばされて行った。
空に伸ばした腕を其の儘に、かごめは背伸びをした。
風変わりな深草色の着物が風に靡く。


「犬夜叉は、ずっと優しかった」


乱れる髪を抑えて、少女は振り返る。
「…気のせいだろ」
ようやっとのことで口を開いた犬夜叉は、ふい、と顔を逸らした。
核心に触れると、如何やら彼は特段口数が少なくなる。
かごめは其のように感じていた。
「ヒトも、嫌いじゃなかった」
「其れこそ気のせいだ」
「嘘吐き」
犬夜叉の目が僅かに見開かれ、琥珀色の瞳がふらりと揺れた。
厭う筈が無いのだと。
厭える筈が無いのだと。
其の想いに蓋をして見ようとしていないのは誰だろう。
彼の想いが消えることなど、無いと言うのに。
「でも、良いよ」
かごめは嘆息して犬夜叉に寄り添った。
「あんたが嘘を吐き続けるなら、私は騙されたふりしてあげる」
「嘘じゃねぇ」
今度は即座に否定するが、余りにも不自然過ぎた。
其れが真実本当なのであれば、否定すべきだったのは今では無い。
分かっていても、犬夜叉は訂正出来なかったし、かごめも何も言わなかった。
「其れでもあんたが優しいってことには変わりないもの」
にこり、と世間話でもするかのような気軽さでかごめは微笑んだ。


「私は、変わらない犬夜叉が好き」


呆けた顔でもしていたのだろうか。
かごめの顔がむぅっと不機嫌に染まる。
しまった、と思ってももう遅い。
「なぁに、其の顔。信じて無いわね?」
「そっ、其れ以上近寄るな!!」
不用意に近付けられた顔に、犬夜叉は真っ赤な顔をして仰け反った。
照れたのは大いに構わなかったのだが、
其れに気付かなかったかごめに向かって口にした台詞が不味かったらしい。
ぶちり、と何かがキレた音がした。
「なぁんですってぇ?!おすわりおすわりおすわりおすわりぃぃっっ!!」
轟々しい騒音と悲鳴がいっそ村の風物詩のひとつになりつつあるのを二人は織らない。

日進月歩、ほんとにほんとに少しずつ。
あの日からずっと、変わりそうで変わらない私達。



02 変わらない僕ら。




・最遊記・



堆く積まれた書簡が折り重なって絶妙なバランスが保たれている。
あからさまに面倒臭そうではあるが、
黙々と職務をこなす三蔵を悟空はじぃっと眺めていた。
「三蔵は、三蔵だよな」
ソファに寝転がりながら足をパタつかせる悟空に、三蔵は盛大に顔を顰めた。
「…質問の意味を図りかねるが」
「ゲンジョーが名前?」
「正しく発音出来るようになってから言え」
聞いているのかいないのか、幼子は禁忌と言われる金晴眼で彼を見上げる。
三蔵は手元に視線を落としたままで、筆を動かす手は止まらない。
寝返りを打つと、悟空はソファの背凭れに顔を埋めた。
「…俺、呼んでたんだよな」
冷たい岩牢の中へと飛び込んできた不機嫌で不躾な声。
ヒトと言うものを見たのも久し振りで、間抜けな返事しか出来なかった。
「喧しくな」
ガラガラと音を立てて崩れていく岩牢に、これは夢かと何度も問うた。
「だったら、俺は三蔵のこと織ってたのかな」
身体を丸めた悟空の背に、三蔵は溜息混じりに答えて筆を置いた。
「厳密には、違うだろう」
「『厳密には』?」
ソファに掛け直し、顔を上げれば三蔵と視線が合った。
彼の面持ちはいつも不機嫌そうだが、いつの間にか慣れるものだ。
反対に、笑っている顔を想い描いた方が、どんな怪談よりも恐ろしい気がしてならない。
「呼んでいたのはお前の『魂』であって、今のお前じゃない。呼ばれていたのは、俺個人でなくて『声の届く者』だ」
ふわりと漂ってくる紫煙の咽るような匂いにも、いつの間にか。
だから分からなかった。

―――このヒトは煙草なんて吸っていただろうか

時折、ふと浮かぶ疑問が疑問にすらなりきれていないのに、
当然のようにしてそこにある理由が。
「たまたまソレが俺に聞こえて、最初にあそこへ行ったのが俺だった」
「偶然、ってこと?」
「他にも聞こえている奴が居たかもしれねぇってことだ」
水面に一滴だけ落ちた雫が、波紋を描いて広がっていく。
その感覚によく似ていた感情の揺らぎが、悟空の口を開かせた。
「難しいこと、よく、分かんないケド」
心にじわりと広がったものの名前はやはり分からないけれど。


「俺は多分、三蔵で良かったんだと思うよ」


へらりと微笑う悟空に、三蔵は押し黙る。
否、何も言わない。
幼子がこんな表情をする時は、決まって何かを思い出し、そうして忘れてしまうのだ。
幼子を戒める呪は容易くは無い。
犯した大罪からは逃れ得ない。
「今の俺じゃない、って言ったよね」
確認するように訊ねる悟空に、三蔵は頷く。
指に挟んでいる煙草の灰が、灰皿の中へとほとりと落ちた。
「忘れちゃった昔の俺が、三蔵が良いって言ったのかも」
「言うかよ、憶えてねぇくせに」
気色が悪いとまで付け加えた彼に、幼子は頬を膨らませる。
「三蔵だって、憶えてないじゃん」
「何を」
ソファにあったクッションを手繰り寄せ、
胸に抱いた悟空は口を尖らせた。
「500年前のこと、憶えてないだろ」
「…それ以前に生まれてねぇよ」
あまりに素っ頓狂な問いに、三蔵は一瞬反応が遅れる。
「三蔵じゃない三蔵が居たかもしれない」
反論である筈なのに、反論らしくない幼子の言の葉は確信にも似た響きを以って囁かれる。
感じるのは違和感だらけだ。


「『輪廻転生』って言うんだろ、ソレって」


仏教用語をするりと口にした幼子に、三蔵の中に疑問が浮かぶ。
教えたかと問えば、否、けれど織っているのだと返って来た。
だとすれば、封印された記憶に宿ると思われる言の葉は、
明日になれば消えているのかもしれない。
交わした会話の中で消えて行く言の葉。
まるで埋めるべき答えの無い穴開き問題のようだ。
「不思議だね」
そう呟いた幼子の心境など三蔵には織る由も無い。
織らずとも良いのかもしれない。
織ったところで、結局ソレを抱えられるのは悟空だけなのだから。
「お前は何でも不思議にしたがる」
「そっかな」
再びソファにごろりと寝転がり、悟空はへへっと笑った。
「ま、良いや。不思議なモンは不思議だもん」
眠気が襲って来たのか、
うとうととし始める幼子に漸く静かになると安堵したのはまた別の話であるけれど。


この心が呼んでいた貴方は誰なんだろうと。
誰で、あったのだろうかと。

あの日からずっと、不思議に思ってました。



03 不思議に思ってました。




・鋼の錬金術師・



軽くノックをして部屋に入ると、此方に目もくれずに作業に勤しむ背中が目に入った。
2人分の珈琲を手にして、ウィンリィ、と名を呼ぶ。
「精が出ますねー」
「誰かさんがもう壊すことも無くなったから、随分楽になったわ」
「そーデスカ」
わざとらしい敬語でエドワードは作業台の上にカップをことりと置いた。
漸くリゼンブールの空と同じ蒼色の瞳の視線が上がる。
「なぁ、ウィンリィ」
「んー?」
怪我しないように付けていた作業用の軍手を外して、淹れてくれた珈琲に口を付ける。
砂糖とミルクがたっぷりなのはウィンリィ仕様だ。
ミルクが入っている時点で恐らく味見はされていないに違いない。
「俺さ、ずっと隠してたことがあるんだ」
唐突な告白に彼女はうろたえるでもなく、へぇ、と答える。
彼の秘密主義は今に始まったことじゃなかった。
秘密、と言っても単に口下手だの言葉が少ないだのが大半の理由なのだから、
厳密に言うとそうではないのかもしれない。
「お前には無いのか?」
ベッドに腰を降ろしたエドワードをちらりと見て、ややあって口を開く。
「…あるよ」
まだ言っていない、こと。
きゅ、とカップを握る手に力が篭る。
「…じゃあ、暴露大会しね?」
だが、すぐに返って来たウィンリィの答えは簡潔だった。
「しない。だって悔しいもの」
「何だ、悔しいって」
「悔しいは悔しい、なの」
「俺が言っても?」
「内容によるかな」
延々と続きそうな言い争いに、エドワードは唸る。
負けず嫌いなこの幼馴染のことだ。
恐らく要は自分だけが告白するのが厭なのに違いないとウィンリィは思っていた。
「内容、ねぇ…どーしよっかなぁ」
煮え切らない態度でうだうだ言う彼に、
ウィンリィは残っていた珈琲を一気に飲み干すとひらひらと手を振った。
「言いたくないことだってんなら、無理強いはしてないわよ」
だが、それを背を向けて言ったものだから、彼の表情の変化にも気付かなかった。
微かに頬が染まっていたことにすら。
「いや、言いたく無いっつーか、言い難いっつーか」
「ハッキリしないわね、そんなだから豆なのよ」
「喧しい!今はお前より高い!!」
未だに小さいだの豆だのの言葉に反応する幼馴染に、
ウィンリィはハイハイとお座なりに返事をする。
エドワードはムキになるのも馬鹿らしくなったのか、ゆっくりとベッドから立ち上がった。
ウィンリィのカップの隣に、自分のカップを並べ置く。
片腕を頭の上に乗せられ、
軍手を着け直していたウィンリィの重心は傾き、前のめりになった。
苦情を言おうとしたが、体勢が体勢だ。
彼を仰ぎ見ることすら叶わない。
「織らなかっただろ」
「う、ん…?」
思い掛けず静かな声音にどきりとしたのは、
エドワードも気付いていないようなので黙っておこう。
ウィンリィが息を呑んだ後に、思い掛けない台詞と、
思い掛けない涙を落としたのは誤魔化しきれない事実になるのだから。



「ずっと、お前のこと好きだった」



それは、あの日からずっと隠し続けてきた秘密。
それが、あの日からずっと隠し続けてきた真実。


未来へと繋がる、あなたへの言の葉。



04 隠し続けてきた秘密。




・TOD2・



砂漠の広がる大地。
古の天上人が途方に暮れて見つめるしかなかった不毛の地は過去のもの。
今では賑やかしい子ども達の声が、あちらこちらから響いてくる。
「ロニ!」
――などと物思いに耽っているところに、後ろからタックルを食らわされた。
「うわ、ナナリー?!」
紅く長い髪が視界に入り、体勢を立て直したロニは諦めたように苦笑した。
当の少女は快活に破顔すると、彼の顔を覗き込んで嬉しそうに腕を引く。
「何だ、いつ来たんだい?」
「さっき着いたばっかりだよ。土産ならチビ達に渡したぞ」
中年にさしかかった青年は礼を言うナナリーの頭を撫でてやった。
高い場所で2つに結い上げられている長い髪は、出会った頃と同じままだ。
「っと、これはお前に」
今思い出したかのか、
ロニは羽織っていたマントの下からシンプルな硝子細工を取り出してナナリーの手に渡す。
「バレッタ?」
歳相応の少女のように目を輝かせる彼女に、
言わなければ良いのにロニは余計な一言を付け足した。
「お前も年頃なんだ。たまにはお洒落くらいしないと、その腕っ節だけじゃ嫁の貰い手なくなるぞ」
「余計なお世話だよッッ!」
ナナリーのドロップキックから関節技への連携はそれはもう見事なものだった。
蛇足だが、彼女の弓使いの腕前もここらでは知られたものである。
「あー、ロニがまたナナリーと喧嘩してるぅ!」
「駄目だぞロニ!ナナリー姉ちゃん苛めたら!!」
「俺が苛められてるっての!」
騒がしいのに気付いたのか、顔を出した幼子達にもこんな具合であるのだから、
ロニとナナリーの喧騒は珍しいことでは無いのだろう。
けらけらと笑いながら走り去っていく子ども達にわざと吼えてみせた。
「ルーティさん達、元気?」
関節技から解放されたロニは首を鳴らしながら、適当な場所に腰を降ろした。
ナナリーも隣に腰を降ろす。
「おう、相変わらずだ」
見上げる横顔は、出会った頃と比べて老けたと言ってもまだまだ若い。
行く当ても無く、病気の弟を抱えてこのホープタウンに辿り着いた時、
手を差し伸べてくれたのは旅をしていたロニとカイルだった。
治るはずのない病を治してくれた。
それだけで恩人なのに、彼らは彼女に、
そしてホープタウンに更なる未来を切り開いてくれた。
感謝してもしきれない。
「あたしね、この前17歳になったんだ」
「そっか、もうそんな歳になるのか。俺も老けるはずだよな」
はははと乾いた笑いを漏らして、ロニは盛大に溜息を吐いた。
未だに彼女も出来ないだとか、結婚出来ないだとかの愚痴も聞こえてくる。
だが、差し当って彼がそれに本気で困っているところを見たことが無い。
そんなことよりも優先させるべきことでもあるのだろうか。
訊ねてみたことは無いけれど。
「ね、ロニ」
少女が徐に呼びかけると、ロニはゆっくりと首を擡げた。
あのね、とナナリーは口篭る。
「あたし、大人に見える?」
ひとつ目を瞬かせて、ふむ、と自分の顎に指を掛けた。
「短気なところは変わらないけどなぁ」
「もう!」
「見える見える、っても昔から随分しっかりしてたしな」
腕を振り上げるナナリーを制して、喉を鳴らして笑う。
最後の台詞は本気なのか、それともまたからかわれているのか。
彼女には判断付きかねたが、
どちらにしても先程、頭を撫でられたのと同じような意味合いに聞こえた。
ぷぅっと頬を膨らませる。
「子ども扱いしてる」
「してねぇって」
「ほんとに?」
「ほんとに」
彼の返事を一応信じたのか、ナナリーは取り敢えず背筋を伸ばして座り直した。
改まったように、少女がロニを見上げたのは気のせいだろうか。
「…だったらさ、誕生日祝いに欲しいものがあるんだ」
「お前が?珍しいな」
普段から滅多にものを強請ることをしない彼女だ。
欲しいものがある、なんて初めて聞いた気さえする。
珍しいと思ったからこそ、ロニはナナリーの次の台詞を待った。
「追い付いたよ。もう、子どもじゃないんだよね?」
再確認してにじり寄るナナリーに、気圧されたように肯定する。
ひとつ深呼吸して、彼女はロニの腕をマントごと掴んだ。
「あたし、ロニが欲しい」
ロニが目を見開いたのが分かった。
子どもの戯言だと笑い飛ばされる前に、ナナリーは立て続けに口を開いた。
幼い恋心だと思われても、本当にそうだったとしても。



「ロニの隣、あたしに下さい」



あの日からずっと、あなたがすきでした。



05 あなたがすきでした。




お題はこちらから
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