Wondering Destiny

By.向日葵様



――― ダレカ・・・コロシテ・・・―――

『花喃!花喃!!』
『悟能?悟能なの?』
『花喃!よかった・・・生きてたんだね』
『悟能・・・』
『ごめん。辛い思いをさせてしまって。一緒に帰ろう。僕が守るから』
『・・・ダメよ悟能。もう遅いの。このお腹の中にはねあの化け物の子供がいるの・・・』
『か、花喃!何を!!』
『さよなら・・・悟能・・・』



――― ボクヲ・・・コロシテ・・・ ―――



「あ〜腹減ったな〜」
「毎日、毎日よく同じ台詞が言えるな。え〜バカ猿」
「バカ猿言うな!このエロ河童!!」
「なんだとコラ〜!」
「え〜いうるさい!!静かにしねーとぶっ殺すぞ!!」
「まぁまぁ三蔵。そんなに怒らなくても・・・」
「八戒・・・。お前も殺すぞ」
「はははは・・・」
なんだか不思議ですね。僕が笑っていられるなんて・・・。これもきっとここにいる皆さんのおかげですね。一度は死を求めたこの体。花喃を失ってから人間を捨てた僕に光を照らしてくれた。それでもまだ消えない心の傷は時々僕を苦しめるけどでも今はあの時のように一人じゃない。そのことだけが今の僕を支えてくれているのかもしれないですね・・・。
「八戒。さっきから何ニヤニヤしてる」
「えっ。なんでもないですよ。三蔵も少しは笑ったらどうですか?いつもムスッとしてるとストレス溜まりますよ」
「フン。余計なお世話だ」 
「なぁ八戒。あそこに誰かいるぞ」
「あん?おっ!綺麗な姉ちゃんじゃないの〜」
「って・・・あれって・・・」
僕達の前に現れたのはどうしても倒さなければならないであろう敵の一人だった。
「八百鼡さん!どうしたんですか?」
「あっ。八戒さん。実はまた李厘様が居なくなってしまって・・・。そちらにお邪魔してないかと思いまして・・・」 
「こっちには来てないぜ。なぁ?三蔵」
「悟浄・・・どうして俺にふる」
「そうですか・・あ、あの・・・八戒さん?」
「はい?」
「その・・・今日はここで野宿ですか?」
「えぇ。もう夜も遅いですし街まではまだまだ距離がありそうですから」
「そうですか・・・。それでは私はこれで」
なんだか今日の八百鼡さんは様子がおかしい様な気がするが・・・。まぁあまり気にすることでもありませんね。それよりなにより悟空のお腹を満たしてあげないと可愛そうですからね。それにしても・・・今日はなんて綺麗な星空。花喃も星を見るのが好きだったけ・・・。
「あっ!八戒!どこ行くの?」
「あまりにも星が綺麗なもので少し散歩してきます。三蔵と悟浄には言っておいて下さいね」


「う〜ん。眺めが良さそうな所は・・・。あっ!ここがいいですね〜」
僕の前に立ちはだかる大きな木。その木に攀じ登り腰を下ろす。星空がグッと近くなる。
ザワザワと木の葉が揺れる。その隙間からは満月が見え隠れしている。時折吹いてくる風に身を任せながら僕はそっと目を閉じる・・・。


『悟能見て!すっごく綺麗な星空!』
『あぁ。そうだね。花喃は星空好きだもんね』
『えぇ・・・。今までは一人で見てきたけどこれからはもう・・・一人じゃないんだね』
『そうだよ。これからはずっと花喃の傍にいるよ』
『悟能・・・私・・・とっても幸せよ・・・』


僕は右手で目頭を抑え自然と溢れてくる涙を止めた。
花喃・・・貴女と幾度となく見上げた星空は今も心の中に残っている。
貴女からの愛は僕の体に刻み込まれている。
もう二度と誰のことも抱けないこの両手・・・。
でも何時かこの汚れたこの両手を<好きだ>と言ってくれる人が現れたら僕は・・・僕は・・・
「・・・さん・・・八戒さん!」
「えっ!八百鼡さん!とっ・・・うっわぁー!!」
いきなり声をかけられた僕は驚いた拍子に無様にも木の上から転げ落ちた。
「大丈夫ですか!八戒さん!」
「ははは・・・大丈夫ですよ。それにしてもどうしたんですか?こんな夜中に・・・」 
心地いい風が僕達の間を吹き抜ける。月の光に照らされた八百鼡さんの表情は何時もと違う。
心なしか頬を赤らめ優しい笑顔を浮かべている。
「八百鼡さん?」
「・・・八戒さんがここにいるかと思って・・・その・・・来ちゃいました」
それはまるで恋する乙女のように初々しくそれでいて何か決心した様に見えた。
「えっと・・・それはどう言うことでしょう?」
「八戒さん。私は今日自分の気持ちに決着を付けに来ました。貴方への想いに・・・」
「八百鼡さん・・・」 
「私は貴方と会うたびに自分の気持ちを抑えることが出来なくなっていました。貴方が好きだと言う気持ちが・・・」
「・・・八百鼡さん。貴女の気持ちは分かりました。でも僕達は敵同士なんですよ」
「分かっています!!だから・・・今日・・・私は・・・」
八百鼡さんの足が大地を蹴りその腕が僕の体を抱きしめる。ほのかに香る甘い匂い。
何年かぶりに感じた柔らかいぬくもり。でも・・・僕は・・・。
「僕は貴女を抱きしめることはできません。この両手は罪人の手。愛するものを失い自分のエゴで次々と人を殺し赤く染まったこの両手。もう二度と誰も抱きしめることは許されない」
「八戒さん・・・」
八百鼡さんの体が僕の体から少しずつ離れていく。そして僕の両手を優しく包み込む。
「私・・・八戒さんの手好きだな。指も長くて綺麗だし・・・」
「!!!!!」
僕の心臓は大きく波打っていた。この言葉は・・・この言葉は・・・

『私・・・悟能の手好きだな。指も長くて綺麗だし・・・』



花喃!!!



「たとえこの両手が血塗れでも関係ありません。殺人を犯したのだとしても私は・・・この両手が好きです」
あぁ・・・僕は待っていたのかもしれない。この両手を<好きだ>と言ってくれる人を・・・。
花喃・・・。貴女を忘れた訳じゃない。今でも・・・愛してる。でも少しだけ時間を下さい。
猪悟能ではなく猪八戒としての時間を・・・。
「八百鼡さん。僕はこの両手を好きだと言ってくれる人を待っていたのかもしれません。でも出会った相手が貴女だと言う事は残念でなりません」
時間がゆっくりと動き出す・・・。
「今・・・この瞬間だけ貴女が敵だと言うことは忘れます。貴女を・・・抱きしめたいから」
僕の両腕が八百鼡さんの体をとらえる。震える彼女の髪をそっと撫でる。心臓の音が僕に伝わる。この一時はきっと・・・忘れないだろう。もう二度と・・・訪れないから。


「八百鼡。遅かったな。心配したぞ」
「独角・・・。ごめんなさい」
「それで自分の気持ちに決着は付けたのか?」
「紅孩児様・・・」
「何?何?決着って?」
「お前には分からんさ李厘」
「・・・決着付けてまいりました。私の中に芽生えた気持ちは本物でした。でもあの方に抱きしめられて決心が付きました。この気持ちは封印しようと・・・。だってあの方は・・・」


「八戒。遅かったな」
「悟浄。すいません。色々あったもので」
「それで自分に決着はついたのか?」
「三蔵・・・」
「何?何?決着って?」
「ガキにはわかんねーよ。猿」
「はい。決着付けてきました。彼女は僕の手を好きだと言ってくれました。正直嬉しかったです。罪で汚れたこの手を優しく包んでくれた・・・。でも出会った相手が悪すぎました。だって彼女は・・・」




「・・・敵です

 から・・・・」


    
   【あとがき】  すいません!ヘッポコで・・・。
            この作品は最遊記初書きなんです。
            最遊記を最初に読んだ時どうしても八戒×八百鼡で書きたいと思っていて
            ようやく書けたって感じです。
            お互いのことを思っているけどそこはやっぱり敵同士。一緒にいる訳には行かない。
            って言うちょっと大人な感じをだせたらな・・・と思って書きました。

カンシャのキモチ

向日葵様より強奪いたしました、悟能殿×八百鼡殿のNovelですvv
八百鼡殿がカワイラシイ!!
恥らう乙女って感じで!!(笑)
でも、彼らもまた、淋しい感じがありますよね。
最遊記版ロミジュリ(笑)。
最後の台詞が、ぐっと来ました。

『敵ですから。』

当たり前なんですけど、どうしても忘れていたいというか。
でも、彼らは色恋で自分の立場、自分の居場所を見失ってしまうほど、
弱くはないんだな、とも思いますね。

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