◆◇TOE犬夜叉最遊記ハリポタ(親世代)ロスユニ◇◆




・TOE・



昼間だと言うのに、薄暗い。
どれほど慣れたといっても、根底にある違和感は拭えない。
「キール?」
「ん?」
「ココんとこ、皺の寄ってるな」
眉間を指差し、彼の真似をする。
読んでいた本から顔を上げ、キールはぷい、と顔を逸らす。
「そっ、そんなことない!」
「そんなことあるよ」
くすくすと笑いながら、
淡い紫の髪をした少女が散乱した彼の本を片付けていく。
「こっちはもう読んだな?キールはお片付け下手ー」
手際の良い少女に感心しながらも、
何処か子ども扱いされた気がして、言い訳染みた返事をする。
「後でやろうと思ってたんだ」
昼間に彼が家にいるのは珍しい。
取り合えずひと段落したので、今日は休みなのだと言っていた。
それでも嬉しくて、少女は彼の邪魔にならない程度に、
一日中傍にいる。
キールとしても彼女が傍にいてくれるのが心地良くて、
何も言わなかった。
「メルディ」
「はいな?」
片付けを途中に、メルディは振り向く。
「…ここは、寒いな」
言われて、部屋を見回す。
暖房は動いていないが、窓は閉めているし、それほど寒くは無いだろう。
夜のような寒さは感じない。
「そか?メルディ、全然ヘーキだけどな」
片付け終えて、ティーセットをリビングへと運んでくる。
紅茶の良い香りが漂った。
「そういう意味じゃなくて」
寝転んでいたソファから起き上がり、茶菓子に手を伸ばした。
ホワイトソディたっぷりの、甘すぎるクッキーにはもう慣れた。
メルディはカップに紅茶を注ぎながら、彼を見やる。
「やっぱり、春は無いんだなと思ってさ」
「ハル?」
冬将軍が去り、春の女神が訪れる。
その恵みが、大地に、海に、全ての生き物に降り注ぐ。
「あたたかい季節のことだよ。気候でも良いけど」
キールの台詞に、メルディはうぅんと首を捻る。
彼の言っていることは、何となく分かる。
インフェリアは確かに、ここセレスティアとは気候が違い、暖かい。
バロールのような、飛び抜けて暑い気候を例外とするのならば。
「んー…セレスティアはインフェリアよりもチョット寒くて、チョット暗い」
今は行くことの出来ない彼の地を想い、苦笑した。
「仕方無いな」
手渡されたカップを受け取ると、口に運ぶ。
少しの沈黙。
先に切り出したのはキールだった。
「もうすぐ、さ。どうにかなりそうなんだ、インフェリアへの道」
きょとん、とメルディはクッキーを銜えたまま動きを止める。
「今頃はラシュアンに花が咲く。一面、ドエニスの花が」
だから、とキールは口篭る。
メルディが首を傾げれば、首まで真っ赤に染めて、半ばヤケになって叫んだ。
「メルディにも見せたいって思ったんだよ!」
大声を出したキールに目を瞬かせ、次いで、ころころと笑い出した。
「何だー。メルディ、インフェリアがこと恋しくなっただけかと思ったよ」
「お前は僕を一体何だと…っ」
真っ赤な顔をしたまま怒鳴るキールに、メルディはますます笑う。
春はすぐ其処で、手を伸ばせば触れられる場所まで来ていて。
ひとりじゃない春が、こんなにも嬉しいものだとは織らなかった。
君の笑顔、それがこんなにも心を満たしてくれるだなんて。

誰かが隣にいる、それが今の自分を支える奇跡。




・犬夜叉・



楓の村に戻って数日。
何とは無しに、かごめと犬夜叉は歩いていた。
半ば、邪魔だからと追い出された犬夜叉と共に歩いているこの状況を、
散歩、と呼んでも差し支えないのならば、其れでも良いのだが。
「此れって、桜の木?」
脇に聳え立つ大木を見上げ、感嘆の声を漏らす。
興味無さそうに、犬夜叉も同じものを仰いだ。
「んー?あぁ、確か」
矢っ張り、と目を輝かせ、ぱたぱたと其の根元へと駆け寄った。
「此れだけ大きいんだから、春は綺麗でしょうね」
「さぁな」
気の無い返事に、かごめは頬を膨らませる。
「何よ、見たことあるんでしょ?」
簡単に見繕っただけでも数十年は軽いだろう大木に、そ、と触れる。
微かな温もり。眠っている、花の嵐。
「綺麗なものを綺麗って想うのは、当然だわ」
「当然、ねぇ」
かごめの背後から手を伸ばし、同じように木に触れる。
ざらりとした感触が手のひらに残る。
其れが嫌いでは、無い。
「犬夜叉は」
漏らされた言の葉に、犬夜叉はかごめを見下ろす。
「其の時、綺麗だって想わなかったの?」
背後からでは、表情など良く分からない。
怒っている、とも違う。泣いている、とも違う。
痛い、とだけ、音にされずに沈んだ言の葉を感じた。
「自分の目に映った其の景色を、美しいとは想わなかったの?」
「…いや」
微かにたじろぎ、目を逸らす。
春の風越しに映った景色。
五十年前の、春の、いろ。
広がった、甘く、切ない感情。
「私はね、犬夜叉が少しでも添う感じてくれていたら良いなって思った。添う、想えるだけの心があったとしたのなら」
自分以外の誰かが、其の時傍に居たとしても。
「嬉しいって想ったのよ」
堪らず、目の前の少女を抱き締める。
掻き抱いても、足りないくらいに。
やっとのことで、搾り出す。
「春の雪かと、想った」
何処までも降り積もる、溶けることの無い真白な。
かごめは、目を瞬かせた。
彼にしては、何と風流な物言いだろうか。
余りにらしくなくて、思わず噴出してしまった。
「…何で、笑ってんだよ」
「だ、だって」
笑いの収まらないかごめの肩に、憮然とを乗せる。
頬に触れる銀の髪がくすぐったい。
今は、此れだけで良い。
他愛も無く交わせる言の葉があるだけで。
未だ遠い春を想い、傍にあるぬくもりに身を委ねた。

手を繋いで、肩を並べて。
春が来たのなら其の時は、一緒に桜を見上げましょう。




・最遊記・



春が来て、何かを思い出せそうで、何も思い出せないこの感覚を、
一体、あと何度繰り返せば良いのだろう。
何時か、終わりは来るのだろうか。
終わりの来なかった自分にも
―――…。


渡殿の飾柵に腰掛け、咲き誇る桜を見上げる。
大きなそれは、幾百の春を迎えたのだろう。
その内、呑み込まれてしまいそうな花弁の洪水。
「桜は、春が来る度に咲き続けるんだね」
意図せずに漏らされたそれは、独り言であったのかもしれない。
不安定で、虚ろで、どうしようもなく泣いてしまいそうな。
「三蔵。終わりは、あるのかな」
何時の間にか背後に立っていた僧侶へ、振り向かずに問い掛ける。
面倒臭げに答えると、火の点いていない煙草を銜えた。
「あるだろ」
今度は肩越しに振り向いて、問うた。
逆光で、表情は暗がりにしか見えない。
「俺にも、あるかな」
カチリ、とライターの音が静かな廊下に響くかと思った。
だがそれも、風の音に掻き消される。
「何時かな」
吐き出された紫煙は、春の風に攫われ、あっという間に見えなくなった。
もう一度、桜を仰ぐ。
「そっか」
小さく、良かったと呟いた幼子の目には、何が映っていただろう。
遠い、遠い古を想い、馳せる。
嘗て、護りたいものがあった。
それが何かは思い出せない。
それでも、失った洞は未だ埋められないままで、ぽっかりと穿たれている。
此処に無いものを取り戻そうとするように、春が来る度、縋り付く。
桜の色に自分を重ねて、深い夢へと堕ちて行く。


貴方を思い出したその時に、大声で泣いても良いですか?




・ハリー・ポッター(親世代)・



何時も唐突な彼の提案に、今更驚いてやる義理も人情も無い。
と言うよりも、このようなことで一々驚いていては、身が持たない。
「春と言えば恋の季節だね、リリー!」
「一体全体、何処のどなたがそのように定めたのか織らないけれど、少なくとも、私には欠片ほども関係の無い話ね、ジェームズ」
きっぱりすっぱり言い切って、リリーはにっこりと微笑んだ。
漸く最近になって、デートにも付き合ってくれるようになったリリー。
まだまだ色恋とは程遠い気がしないでもないが、彼にとっては大進歩だ。
「そんなことは無いはずだ!だって僕の目には、見る度に君が綺麗に見えるのだから」
「あらソウ。だったら、眼鏡の度合いを上げるべきね。宜しければ、腕のいいマグルの目医者を紹介しましょうか?」
「僕の心配をしてくれるだなんて、何て君は優しい心の持ち主なんだろう!」
「まぁ、ありがとう」
馬の耳に念仏。豚に真珠。暖簾に腕押し。
丸っきり、意味の無いこと。
何処かの国ではそのような諺があるらしい。
踏まれてもヘコたれない、ジェームズの心意気には心底尊敬の念すら浮かんでくるが、
どうにもこうにも、空回りしている気がする。
そうして、それに気付いていない彼の想いの深さには脱帽だ。
彼女の台詞はどんなものでも、ポジティヴシンキングに摩り替わるらしい。
長所と言えば、長所なのではあるのだが。
「ね、散歩しよう」
悪意の無い笑顔で手を差し出され、リリーは一瞬考え込む。
果たしてこれを取っても良いものかどうか。
仮にも彼は、学校中で名を馳せる悪戯と添い寝が出来る人種である。
じっ、と用心深く彼を見つめると、だらしなく掛けられた眼鏡の奥で、
嬉しそうに目が細められた。
首を傾げれば、あちこちに跳ねた癖のある髪が揺れる。
「散歩くらいなら」
今のところ、疑わずとも良いようだと判断した。
子どものように、否、まだ子どもではあるのだろうが、
無邪気な仕草が憎めない。
時折、淋しそうに大人びた表情をする彼が、放っておけなくなる。
「ジェームズ」
呼ばれ、即座に振り返る。
横切ろうとした中庭の真ん中で立ち止まった。
「何?」
少しだけ強く、繋がれたままの手を握る。
「こういうので、良いわ」
「こういうの?」
呆れたような顔をして、リリーは溜息を吐いた。
どうして、肝心なことには鈍感なのだろうか。
「貴方は色々考え過ぎよ。私は、こういうことが嬉しいもの」
ジェームズが、彼女を喜ばせようとして色々なことを画策しているのは分かる。
彼の友人が、その所為でたまに自分に泣きついてくるのも。
「貴方と手を繋いで、散歩して」
手を掲げて、にこりと微笑む。
「今は、それだけで良い」
面食らったジェームズ、瞬きを繰り返す。
くしゃり、と表情を崩し、困ったような笑みを浮かべた。
「そう、なんだ」
繋がれた手を引き寄せ、手の甲に口付ける。
上目遣いに見上げる彼に、とくん、と心臓が跳ねる。
「そんなことでリリーの微笑が見られるのなら、いくらでも」
「調子が良いわね、いつも」
そのような彼にどうしようもなく惹かれているのだから、
自分も好い加減、調子が良いとは思いつつも。
仕方の無いことと言うのは、本当にあるものなのだと、
リリーは彼に気付かれないように苦笑した。




・ロスト・ユニバース・



『好き』と『大好き』と『愛してる』。
どれが一番、私らしい?
貴方に聞いたら、きっとどれでも良いって紅い顔して言うんだろうね。
私はそれが嬉しくて、思わず微笑ってしまうのだわ。


洗い立てのシーツを広げ、物干し竿に引っ掛ける。
温かな風が、弧を描かせて通り過ぎた。
「ほら、ケイン。見てないで、洗濯物くらい手伝っ…」
言いながら、白いエプロンドレスを靡かせた少女が振り返る。
だが、全てを言い切らないうちに、あら、と漏らした。
ケインはテラスに持ち出された椅子に深く腰掛け、こくり、と船を漕いでいた。
気候が暖かく、気持ちが良い。
異国では『春眠暁を覚えず』と言うくらいなのだし、仕方の無いことかもしれない。
そう結論付け、少女は諦めて洗濯籠を持ち上げた。
穏やかな日々。戦闘や厄介ごとばかりで、こんな日が来るなんて夢にも思わなかった。
自分が、誰かの傍にいるなんて、考えたことも無かった。
ずっと、そんな日を願っていたのに、願えるはずも無いと分かっていた。
拭えない傷跡。血の、匂い。
「…ん」
背後で漏らされた声に、思わず振り向く。
洗濯物も干し終わり、空になった籠をテラスへと置いた。
ワンピースの裾を払って、彼の隣に腰掛ける。
直に座れば、足に触れる芝生がくすぐったい。
「良く寝るわよね、ホント」
男性にしてはやや細いものの、整った顔立ちを下から見上げ、笑みが零れる。
あどけない表情。気兼ねも無く、寛げる場所。
気を許してくれているのが、たまらなく嬉しい。
「ケイン、あのね」
言って良いだろうか。貴方に届くだろうか。
口篭り、そのまま閉じられる唇。
「…どした、ミリィ」
半分ほど寝呆けた口調が降ってくる。
顔を上げれば、欠伸をしているケインが目に入った。
不意に、予期せずしてあたたかいものが頬を伝う。
ぎょっとして、ケインはミリィの前に座り込んだ。
「何だ、どうしたんだよ?ミリィ?」
彼の言葉で、漸く自分が泣いていることに気付いた。
慌てる彼の様子が可笑しくて、思わず笑ってしまう。
「違うの、嬉しいのよ」
涙を拭い、首を振る。
彼へと手を伸ばし、その胸へと顔を埋めた。
確かに彼が此処にいるという鼓動と、ぬくもり。
「ケイン。私、貴方にありがとうって言いたかった」
「ミリィ?」
「ありがとう、傍に…いてくれて」
一度だけ、心臓が大きく鳴って、ケインは何も言わずにミリィを抱き締めた。



貴方に出会えた奇跡を、今なら全てに感謝することが出来る。




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