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 ・悟空・
 
 
 
 ふと、空を見上げた。
 降りそうだなぁ、と思ってたらホントに降ってきた。
 立ち寄った店の軒下で雨宿りしてたら、
 店のおばさんからお菓子を貰った。
 「…三蔵、もう帰って来てるかな」
 朝から出掛けている三蔵を思い浮かべたら、
 仏頂面しか思いつかなかった上に、
 何故だか物凄く莫迦にされた覚えしかなかったんで止めた。
 笑った顔とか思い出そうとも思ったけど、
 鼻で嗤われたとこしか見たことが無い。
 眺めるだけだった雨は、ずっと冷たかったけれど。
 帰ろう、と思い切って俺は雨の中を飛び出した。
 
 
 
 雨は思っていたよりも、ずっとあたたかかった。
 
 
 
 
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 ・三蔵・
 
 
 
 
 たった1日で山越えろとか言うのが間違ってる。
 ほら見ろ、降ってきやがった。
 まぁ、これだけでかい木の下だったら、少しは雨露凌げるだろ。
 「…煙草も湿気ってやがる」
 他にすることも無ぇってのに、物事は本当に都合良く間が悪い。
 頭痛がしてきた。
 忙しなく頭の中で打ちつける痛み。
 目を閉じても、拭えない光景。
 身体に染み付いた血の臭い。
 罪悪の念だとか、後悔だとか。
 莫迦莫迦しい。
 
 
 
 雨が降る度に湧き上がる想いは、そんな言葉じゃ括れない。
 
 
 
 
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 ・悟浄・
 
 
 
 あー、やっぱ降ってきた。
 アイツの言うこと聞いて、傘持ってくりゃ良かったかな。
 濡れて帰ったら、絶対小言の嵐だろーし。
 何か、機嫌取る方法…思いついたら苦労しねぇっつの。
 「ま、しゃーねぇか」
 遅く帰っても睨まれて、濡れて帰っても叱られるんなら、
 さっさと帰って家の掃除でも手伝った方が無難だろ。
 いや、でも、雨の日に掃除はしたくないんですよとか、
 この前言われた気がしたよーな、してないよーな。
 どうだっけかな。
 どっちにしても、面倒臭いことには変わりない。
 
 
 
 俺にとっても、アイツにとっても。
 
 
 
 
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  ・八戒・
 
 
 洗濯物取り込んでおいて正解でした。
 そろそろ降り出すと思ったんですよね。
 どっかの誰かさんはヒトの忠告無視して出て行ったんだから、
 織ったこっちゃありません。
 勿論迎えになんて行きませんよ、
 ドコにいるのか見当も付ける気無いですから。
 「…帰ってきたら、また騒がしくするんでしょうね。あのヒトは」
 雨の日は、一体ドコまで静かになるのだろう。
 耳の奥がキン、と響いて、治ったはずの腹の傷が疼き出す。
 君の名前を紡ぐことすら、今の僕には赦されないかもしれないけれど。
 
 
 
 この雨を、ひとりで過ごすには長すぎる。
 
 
 
 
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 ・観世音菩薩・
 
 
 
 雨、か。
 いつだったか、アイツが恵みの雨だとか言っていたな。
 随分とロマンチストな台詞吐きやがる。
 あのガキに感化されたか。
 それならそれで面白い。
 「『雨降って地固まる』ってワケには行きそうに無ぇな」
 妙な確執に拘って、
 蟠っているモンだから自分で出口塞ぐ羽目になるんだよ、莫迦。
 どうしてこう、大らかに人生を謳歌出来ないのかねぇ。
 華の命は短いんだぜ、若造共。
 雨なんて、ただの水。
 記憶を呼び起こす切欠でしか無いもの。
 そんなもんに囚われるなんざ、まだまだ若い証拠だな。
 
 
 
 そんな所で這い蹲ってないで、
 とっとと起き上がってガンのひとつでも飛ばしてみろよ。
 
 
 
 
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