◆◇悟空三蔵悟浄八戒観世音菩薩◇◆




・悟空・



ふと、空を見上げた。
降りそうだなぁ、と思ってたらホントに降ってきた。
立ち寄った店の軒下で雨宿りしてたら、
店のおばさんからお菓子を貰った。
「…三蔵、もう帰って来てるかな」
朝から出掛けている三蔵を思い浮かべたら、
仏頂面しか思いつかなかった上に、
何故だか物凄く莫迦にされた覚えしかなかったんで止めた。
笑った顔とか思い出そうとも思ったけど、
鼻で嗤われたとこしか見たことが無い。
眺めるだけだった雨は、ずっと冷たかったけれど。
帰ろう、と思い切って俺は雨の中を飛び出した。



雨は思っていたよりも、ずっとあたたかかった。





・三蔵・




たった1日で山越えろとか言うのが間違ってる。
ほら見ろ、降ってきやがった。
まぁ、これだけでかい木の下だったら、少しは雨露凌げるだろ。
「…煙草も湿気ってやがる」
他にすることも無ぇってのに、物事は本当に都合良く間が悪い。
頭痛がしてきた。
忙しなく頭の中で打ちつける痛み。
目を閉じても、拭えない光景。
身体に染み付いた血の臭い。
罪悪の念だとか、後悔だとか。
莫迦莫迦しい。



雨が降る度に湧き上がる想いは、そんな言葉じゃ括れない。





・悟浄・



あー、やっぱ降ってきた。
アイツの言うこと聞いて、傘持ってくりゃ良かったかな。
濡れて帰ったら、絶対小言の嵐だろーし。
何か、機嫌取る方法…思いついたら苦労しねぇっつの。
「ま、しゃーねぇか」
遅く帰っても睨まれて、濡れて帰っても叱られるんなら、
さっさと帰って家の掃除でも手伝った方が無難だろ。
いや、でも、雨の日に掃除はしたくないんですよとか、
この前言われた気がしたよーな、してないよーな。
どうだっけかな。
どっちにしても、面倒臭いことには変わりない。



俺にとっても、アイツにとっても。





・八戒・



洗濯物取り込んでおいて正解でした。
そろそろ降り出すと思ったんですよね。
どっかの誰かさんはヒトの忠告無視して出て行ったんだから、
織ったこっちゃありません。
勿論迎えになんて行きませんよ、
ドコにいるのか見当も付ける気無いですから。
「…帰ってきたら、また騒がしくするんでしょうね。あのヒトは」
雨の日は、一体ドコまで静かになるのだろう。
耳の奥がキン、と響いて、治ったはずの腹の傷が疼き出す。
君の名前を紡ぐことすら、今の僕には赦されないかもしれないけれど。



この雨を、ひとりで過ごすには長すぎる。





・観世音菩薩・



雨、か。
いつだったか、アイツが恵みの雨だとか言っていたな。
随分とロマンチストな台詞吐きやがる。
あのガキに感化されたか。
それならそれで面白い。
「『雨降って地固まる』ってワケには行きそうに無ぇな」
妙な確執に拘って、
蟠っているモンだから自分で出口塞ぐ羽目になるんだよ、莫迦。
どうしてこう、大らかに人生を謳歌出来ないのかねぇ。
華の命は短いんだぜ、若造共。
雨なんて、ただの水。
記憶を呼び起こす切欠でしか無いもの。
そんなもんに囚われるなんざ、まだまだ若い証拠だな。



そんな所で這い蹲ってないで、
とっとと起き上がってガンのひとつでも飛ばしてみろよ。





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